イブの夜。あなたの後に眠りたい。
土蛇 尚
ずっと起きていたい
僕たちが出会ったのは病院の新生児室。
まだ名前もない時から僕らは一緒にいた。田舎の小さな病院で赤ちゃんは僕と君だけ。僕たちはその頃から二人だけの部屋にいた。アルバムにはガラスの張り付く僕の父さんと母さん、君のママとパパの写真が残ってる。四人は仲が良いしこれからもずっとそうであって欲しい。僕たちがいなくなった後も。
今から24年前の今日、12月25日。僕の誕生日で君の誕生日でもある。好きな人と同じ誕生日なんて奇跡だと思う。奇跡ってのは偶然に意味を見出してるって意味らしい。そのくらい分かってるけどそんなのどうでもいい。
「25歳の誕生日おめでとう。あとメリークリスマス」
時刻は午前0時ちょうど。僕の隣でスマホのアルバムを見ながら君はそういった。君の好きなサーモンサラダは食べたしケーキも美味しかった。クリスマスらしい事は一通りしたと思う。
「ねぇこの写真ちゃんと笑ってよ。これどこ見てるの?」
君がスマホを突き出して写真を一枚見せてくる。イルミネーションで撮った僕は全然笑えてなかった。横を向いて君の寒さに当てられて少し赤くなった耳と君がしているイヤリングを見ている。赤い小さな、多分ちゃんと名前があって種類とかもあるんだけど分からない。正直に言うと君がしているってことが重要でそれに一番視線を囚われていた。
「ねぇこれ覚えてる?3歳くらいかな」
僕の人生で一番古い記憶に出てくるのは君だ。訳も分からず座らされて君に髪を結ばれている。その写真には同じ幼稚園の服着た僕たちが写っていた。同じお店でランドセルを買って同じ家具屋さんで勉強机を買った。同じ中学、同じ高校の制服を着た。僕の記憶の隅々までに君がいる。
一番古い記憶も人生の最後の記憶も君になる。もうすぐ。
僕たちにはもう一つ共通点がある。同じ誕生日、人生の大半の思い出、あと同じ治らない病気
イブシンドローム。
産まれてから25年で寿命を迎える病気。25歳までしか生きられない事以外は一切症状はなく、そして治療法もない。産まれてから25年と言っても厳密には誕生日のだいたい午前3時から4時の間に息を引き取る。
強烈な眠気に襲われて寝たらそのまま起きる事はない。その眠気に抗う術はない。
僕らは産まれた時の血液検査で発症している事が分かった。
「ねぇまだ起きてる?」
「うん。起きてるよ」
僕は繋いだ手をもっと強く握る。
「ねぇ起きてる?」
「うん。起きてる」
おでこを合わせて少しでも近づこうする。
「起きてる?」
「うん」
起きてるよ。大丈夫。
クリスマスはイブが楽しくて、25日は普通の日みたいになってしまう。僕らの人生は一番楽しい時までしかない。君がいてスマホがあれば永遠に起きていられると思っていた。
同じ日に産まれて同じ日に終わるなら僕の人生は幸せだ。君の最後の記憶が僕のうんって声であって欲しい。
おやすみ。
「ねぇ」
・・・
良かった。子ども頃私がお姉さんだったんだから。私が12月24日午前12分生まれ。君が午前15分生まれ。知らなかったでしょ。好きだよ。
おやすみ。Merry Xmas
終わり
イブの夜。あなたの後に眠りたい。 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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