終章
「皆様、本日はT駅クリスマス広場、最終日にお越しいただきありがとうございます!」
白色のドレスを纏った女性司会者の声が、賑わう広場の夜空に響き渡った。長テーブルのエリアだけを見回していると、反応はさまざまである。ステージの方を向いている者と、その方向にさえ目もくれない者。後者はさらに、周囲の連れとの盛り上がりに没頭している者と、ひとり黙々とスマートフォンを触っている者に分けられる。彼らはおそらく、出店からなかなか戻らない連れを待っているのだろうと思う。
「お、早かったね」
一足先に戻ってきたのはトモさんだった。買ってきてくれたポテトの皿を、テーブルの真ん中に据えておいたフライドチキンのカゴの隣に置いた。
「チキン、あんまり並んでなくて」
「そっか」そのまま向かいに腰を下ろそうとして、トモさんは何かに気付いた顔をした。「お、戻ってきた」
現れたヨシさんは、他のよりも一回り大きく見える皿を持って、空けておいた隣のスペース、そのテーブルと椅子の隙間にぐいぐいと身を押し込んできた。
「お待たせ」
「何買ってきたの?」
「これだよ」
覗き込むと、薄いパン生地のようなものに包まれた、マヨネーズのようなソースがかかった肉料理が乗っていた。
「何?これ」
「覚えてないの?去年、気になってたじゃん」
トモさんの動きが止まる。そして、銀縁眼鏡の奥の目がはっと見開かれた。
「あ、ケバブ?」気付いたトモさんは、明るい声でけらけらと笑う。「今年も出てたんだ」
「出てた。並んでたよ」
「てか、シェアできるの。これ」
「どうかな」
笑いながらヨシさんも腰を下ろし、ひとまず三人揃って落ち着いた。誰からともなく、先んじて買っていたホットワインのマグカップを、それぞれ掲げる。
「じゃあ、今年も一年お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「来年も元気に過ごせますように」
「ですね」
さながら忘年会の挨拶とともに、三つのマグカップをかちんと合わせた。
「乾杯」
冷えた手でカップを包みながら、湯気が昇る深い赤紫色を小さく一口、含んだ。シナモンの香りと葡萄の甘さ、そして後に残る心地よい渋味が、じんわりと伝わる。
「あと、お二人は、クリスマスを過ごせる恋人を見つけられるように」
ヨシさんの言葉に、トモさんは吹き出して、どこか投げやりなふうに言った。
「友達の方がいいよ」
辺りはすっかり暗くなっていた。この後はスペシャルステージです、女性司会者の声を聞きながら、燦然ときらめく大きなツリーを見上げた。
T駅広場のクリスマス あべ泰斗 @abetaito3121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます