エピローグ 夢じゃない夢のような日々
夏休みが終わった。
二学期が始まり、学校へ行くと、まるで最初から存在していなかったかのように、俺の席の隣にあった机はなくなっていた。
誰も、彼女の話をする人はいなかった。
「久留宮瑠美のこと覚えてる?」と言っても、誰もが「誰?」と言った。
なぜだかわからないが、瑠美は最初からいなかったことになっていた。
そんなはずないと、始めは瑠美の存在を信じていた俺も、日が経つにつれ、だんだん不安になってきた。
彼女は俺の妄想上の存在なんじゃないかって。
瑠美と過ごした日々は夢のような時間だったけど、実際に夢だったのかもしれないって。
だいたい、俺みたいなイケメンでもなんでもないただの気持ち悪い変態に、あんな可愛い彼女ができるわけないじゃないか。バカみたいだ、俺。
胸にぽっかりと穴の空いたような時間を過ごしているうちに、秋のクリスマスの日になった。
そして、その夜のこと。
バイト帰り、イルミネーションで輝く街中を歩いた後、彼女と初めてデートしたあの公園へ訪れた。
俺は瑠美と別れてからというもの、未練がましく毎日この公園を訪れて、彼女のことを思い出していた。
ふと、背後から、誰か近づいてきたのを感じた。
「だーれだ?」
懐かしい声とともに、後ろにいる誰かから両手で目をふさがれた。
「……瑠美」
「ふふ、せーかい」
手が目から離れ、俺は振り返る。
目の前には、あの久留宮瑠美の、以前と変わらない整った顔立ちがあった。
「メリークリスマス」
祝いの言葉とともに、イルミネーションよりもはるかに眩しい笑顔を、彼女は俺に見せてくる。
「会いたかったです、あなたにずっと」
「俺もだ」
ぽろぽろと涙がこぼれてしまった。
「なに泣いてるんですか、もう……男なんですから、もっとしゃきっとしてください」
そう言って、彼女は俺の涙をきれいな指でぬぐってくれた。
「あなたに渡したいものがあるので、目を瞑ってくれませんか?」
目を瞑る必要がなぜあるのかわからないが、言う通りにした。
そして、次の瞬間――
ちゅ、と頬に柔らかいものが触れた。
驚いて目を開けると、瑠美がキスしていた。
「今のは、クリスマスプレゼントです」
俺から数歩離れて、顔を赤くする彼女。
「で、では私はこれで、今から子供たちにプレゼントを届けに行かないといけないので!」
瑠美は逃げるように走り去っていった。
その姿はどんどん小さくなっていき、やがて夜闇の中に消えてしまった。
一人になった公園で、俺は自分の頬に手で触れる。
夢だったんじゃないかと疑った、彼女との楽しい日々。でも、頬に残っている柔らかい唇の感触が、夢ではないと俺に教えてくれた。
クリスマスが一年に四回ある世界 桜森よなが @yoshinosomei
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