第34話 偽りでない、本当の恋人に

 俺と瑠美は最初にデートしたあの公園に来ていた。

 公園に入ってから、俺たちはずっと無言でブランコに乗っている。


 いつまでこの静かな時間は続くのだろう、もしかして別れるその瞬間までこうなのかな、と思った時、隣の彼女が口を開いた。


「満足しましたか? 恋人ごっこは」


 わざとらしく恋人ごっこのごっこという部分を強調して彼女は言う。

 そう、瑠美はあくまでクリスマスプレゼントとして俺と付き合っていただけだ。つまりこれは単なるごっこ遊びに過ぎなかったのだ。

 わかっていたさ、そんなことは。


「うん、君はクリスマスプレゼントとして、俺の彼女でいてくれただけなのかもしれないけど、最高だったよ。満足した、ありがとう」


 瑠美はそれを聞いて、泣きそうな顔になって顔を下に向けた。

 少し経過して、顔を上げると、何かを決意した表情で俺のことを真っすぐに見つめてきた。


「私、今からあなたに本当のことを言おうと思います。もうなにも隠し事はしません、全て打ち明けます……サンタ機関は実は、世界を支配して、クリスマスを一年に十二回やるものにしようとしている、悪い組織なのです。

 本当は私、日本を支配するためにあなたを利用するようにサンタ機関から言われていたんです。最初はその気でしたけど、だんだんあなたと関わっていくうちに、そんな利用するようなことなんてしたくないと思うようになりました」


 潤んでいた瑠美の瞳から、とうとう雫がぽろぽろとこぼれだした。

 その小さな雪のような涙を、彼女は袖でぬぐいながらも、語り続ける。


「彼女というのもあなたの言うとおり、最初はサンタの仕事としてやっているだけでした。でも、怜久くんと日々を過ごしているうちにあなたのことがだんだん本当に好きになってきて……私、今では本当にあなたの彼女になりたいと思っています。怜久くん、私、あなたのことが、大好きです。帰りたく、ないです。あなたと、ずっと、いたい、です……」

「俺もだよ、本音を言うと、最初の方は君がただ美少女だから好きだっただけだけど、今はそんなことない、性格も含めて、全部好きだ。瑠美、君じゃなきゃ、だめなんだ、瑠美以外が彼女とか考えられない。俺と本当の恋人になってほしい」

「嬉しいです、すごく……でも、わたし、サンタなんです、天界に帰らないといけません、サンタじゃなかったらあなたと本当の恋人になれたのに……。でも、私、サンタをやめたくないんです、サンタとして、私、子供たちを笑顔にしたいんです、これからもずっと……だから、お別れ、です」


 瑠美がブランコを降りる。

 ちょうどそのタイミングで、そりを引いたトナカイが空からこちらに向かってきた。

 トナカイは徐々にスピードを落として、やがて瑠美の傍に着地した。


「また、会えるんだよな?」

「わかりません、でも、きっと会えます、私はそう信じています。だから、怜久君も、信じていてほしいです」

「わかった、信じるよ、だから待ってる、いつまでも、君が俺の元にまた来てくれるのを」

「ありがとう、怜久くん……さようなら」


 彼女はトナカイとともに空高くへと飛んでいった。

 公園には俺以外、誰もいなくなってしまった。

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