東京コミコン2023 チケット購入

 そして今年。

 2023年10月、東京コミコン2023にユアンが来日すると発表された。

 私は今年のはじめ、いまさらながらユアンとニコール・キッドマン主演の映画『ムーラン・ルージュ』にドハマりしていた。ブルーレイを買い、サントラを買い、中古で映画パンフレットを買い、丁度日本で上演されたミュージカルを見に行き、ミュージカル版のサントラも買った。今も映画版とミュージカル版のサントラを交互に聞きながらこれを書いている。

 そんなことがあって、私的に今年はユアンが熱かったのだ。だから情報解禁されたその瞬間、絶対会いに行くと決めた。

 チケットはやはり争奪戦だった。

 時間ぴったりにぴあにアクセスしたが、アクセス集中でなかなか入れず、ようやく入れたときにはすでにいくつかの時間帯で売り切れだった。それでもなんとか、サインと写真撮影を一枚ずつ確保できた。

 撮影が9日(土)、サインが10日(日)だったので、入場券は2枚必要だ。今年はこの段階で入場券を買った。去年の経験から、入場券の購入はセレブチケットを購入してからにしようと最初から決めていたのだ。今年は、1日券を2枚買うのと、3日間通し券は値段が同じだった。通し券は首から下げるタイプのパスがもらえて、Tシャツのおまけもついてくるそうなので、通し券を買ってみた。

 これで準備は整った。あとは行くだけだ。

 来日が決まったときは、まだ全米俳優組合のストライキが続いていた。ストの期間中、俳優は公の場で作品に関して語ることができない。実際、10月に開催されたNYコミコンに参加したユアンは、紅茶の入れかたと大好きなバイクについて熱く語ったらしい。それはそれで聞いてみたいけど、やっぱり出演作についても聞きたい。そんなストライキも11月9日に終了。これでなんの制限もなく色々な話が聞けることになったわけだ。

 ストが終了したことで撮影が再開されて次々にキャンセルが出るのでは? という逆の心配もあったが、幸いなことに杞憂きゆうに終わった(トム・フェルトンの来日キャンセルの情報解禁はスト終了前だったので、おそらくこの影響ではなさそう)。

 さて、ジェレミーのときは当日が近づくにつれナーバスになっていった私だが、今年はどうだったか。

 まったく、実感が湧かなかった。

 12月に入ってカレンダーをめくったら「コミコン」と書いてあって、あ、そっか。となったくらいだ。

 そっか、来週、ユアンに会ってるんだ。

 そっか、3日後、ユアンに会ってるんだ。

 明日、ユアンに会うんだ。

 そっか。

 ……。

 ……。

 ……。

 そう。思考停止していたのである。

 ユアンに会う。そのことを考えると頭が真っ白になって、何も考えられなくなるのだ。それゆえ、緊張もしなかった。

 もともと私にはそういうところがあった。想定外の事態が起きると、事態を理解し受け入れるまでちょっと時間がかかってしまうことがある。道路に飛び出したネコが、ヘッドライトの光にびっくりして動きが止まってしまうあれに近い。

 そうはいっても、準備しないわけにはいかない。せめて言語が通じればなんとかなるかもしれないが、私の壊滅的な英語力ではなんとかなる見こみはゼロだ。

 だから、言うことはあらかじめメモしておくことにした。

 まずは撮影について。

 せっかく撮るなら、できればユアンとハグしてみたい。コミコンの方針では、写真撮影でセレブにポーズやハグのリクエストをすることは禁止としているが、人によっては結構やってくれるらしい。そう何度も会える相手ではないのだ。聞くだけ聞いてみて、断られたら普通に横に並んで撮ればいい。

 次はサインの準備。

 サインは持参したものに書いてもらうか、会場が用意したポートレイトに書いてもらうかのどちらかになる。どんなポートレイトがあるかは行ってみるまでわからない。そこで、なにかひとつは持参して、当日ポートレイト見てから、どちらにもらうか決めることにした。

 持参するものは、迷った結果、ユアンと撮影した写真に決めた。『ムーラン・ルージュ』の映画パンフレットも捨てがたかったのだが、サインをもらってしまったら読みにくくなると思ったのでやめた。

 次は言いたいことを日本語で作って、それをDeepL翻訳にかける。

 よければハグしてください。 → Could you give me a hug?

 お会いできて嬉しいです。 → Glad to see you.

 うん。聞いたことある。なんかそれっぽい気がする。これでいこう。スマホのメモ帳にコピペした。もちろんあいさつと、終わったあとのお礼も忘れちゃいけないけど、それはさすがの私でもわかる。

 あと、作品の感想というか、このキャラが大好き! みたいなやつを何パターンか用意した。実際にどれを言うかは、当日、状況に応じて決めればいい。

 さて、勘のいいかたならもうお気づきだろう。

 このときの私は、ほとんどの決断を当日の自分に丸投げしているのだ。嫌な予感しかしない。

 だがそのときの私はそんな予感、微塵みじんも感じていなかった。むしろ、もしもこれを乗り切れたら、私はレベル12からもう少し成長できるのではないか。そんな期待すらいだいていたのだ。

 身の程知らずとは、このことである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る