「何さ、ニヤニヤして。気持ち悪いな」


 自分でも気がつかない間に思い出し笑いをしていたらしい。中井はうじ虫を見るかのような目を向けてきた。


「いや、どの口がそう言うのかと。……まあいいや、せっかくだし着ようぜ」


 俺がトナカイの衣装に手を伸ばすと、中井はため息をついた。

 なんだかんだ言って、中井も三田には甘い。ショートケーキ並みに甘い。


 三田が自分を顧みずに他人に身を投げ出すのは、おそらく育った環境のせいだろう。兄や妹のように才能がなく、努力をしても求められる結果を出せず、愛されているという実感が得られなかった。結果として、他人を喜ばせることを最上とすることになったのだろう。たとえ、なんの見返りがないとしても。それで三田が傷つくのだとしても。


 それを優しさと呼ぶことには抵抗がある。あまりにも歪みすぎているからだ。

 でも、三田は優しい。俺なら一切気に留めないことに気を回すし、電車で席を譲られた婆さんは安心して移動できるだろう。

 三田の優しさにつけ込むやつもいる一方、彼の優しさに救われるやつがいることも間違いない。


 俺は三田のサンタにはなれない。おそらく三田の心の穴が埋まることはこの先もないだろう。家族の穴は家族にしか埋められないからだ。


 じゃあ俺はお前のトナカイになってやる。

 お前が誰かを救う優しいサンタになると言うなら、俺はサンタの進む道を切り開く。行く手を阻む枝を薙ぎ払い、ソリを引いて大空を駆けてみせる。


渡仲となか、似合うね」


 ダサいトナカイの着ぐるみを身にまとった俺を見て、中井は軽快に笑った。


「不思議だな。褒められている気がしない」

「褒めてるよ。そんなに僕のことが信用できない?」

「1ミリも信用してない。そう言う中井も案外似合ってるな」

「奇遇だね。僕も褒められている気がしないや」

「ほら見ろ」


 似合う、似合わないで醜い言い合いを始めた俺たちを止めたのは、やはり三田だった。


「よし、街に行こう」


 サンタ服と帽子を身につけ、しろいひげもじゃになった三田はきっぱりと言い放った。変なところにこだわりがあるというか、すでに俺たちが寒空の下へ行くのは決定事項らしい。

 今晩は冷え込むと聞いている。着ぐるみの下は長袖シャツ1枚では心もとない。でも。


「まあ、それも悪くないか」

「奇遇だね。僕もそう思ったよ」


 中井はクリスマスチキンのCMよりもはるかに自然な顔で笑い、鼻歌を歌い始めた。クリスマスソングだ。


「じゃあ、行こうか」


 サンタについて行くのはトナカイの役目だ。俺たち従者はどこまでも共にある。

 

 三田が部屋の扉を開くと、冷たい風が吹きこんできた。夢と、誰かへの愛をのせて。

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聖なる夜の従者たち 藍﨑藍 @ravenclaw

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