導を失くした人類は、ここから何処へ向かうのか。

 FITS――人の経験を保存・共有することで、より正確に最適化された「直感力」をもたらす科学技術を、人類の大多数が利用する近未来世界の物語。

 このFITSという発送がまず画期的で、さらに、その技術を拒んでいる人びとに導入を促す「共歩敷衍官」という職業が登場することに感銘を受けました。設定の深さもさることながら、聖書や芸術からもらってきた各種名称や登場人物のネーミングセンスが、どれも洒落ていて素晴らしかったです。
 終盤の展開は凄惨で目を覆いたくなりますが、「なるほど、そうなってしまうかも」と思わせる説得力があり、スケールの大きな世界感と併せて、一本の長編映画を観たような気持ちになりました。