第54話 番外編② ペシミストのエルマー・4
アリスタのことをアリスタと呼んでも良いって許された時には、僕は僕の人生について考えまくってから、しっかりと決めていた。
アリスタと一緒に生きたい。
アルセーヌさんやガブリエルさんはいつかイリアディアの里に帰るみたいだけれど、僕はこの帝国城で生きていく。
二人に僕の決めたことについて話したら、アルセーヌさんからはずっと僕の味方だって応援して貰えたし、ガブリエルさんには、ここだけの話だけれど、貴方にいつか『ソブリ』の名とその地位が相応しくなるように私達もゴドノワをこれでもかこれでもかと盛り上げるから、と教えて貰えた。
――さて。
アリスタを支えるために色々と僕も学んだり、働いたりしなきゃいけない。
「正直、貴方のような青二才の若造、2週間持つかも怪しいのですが」
デズ卿はいつだって辛辣だ。でも、僕を相手にしている場合には嘘も言わないって分かった。
基本的に性格が悪くてビックリするくらいに腹黒いけれど、それはアリスタと帝国のために腹黒いんだ。
「うん!だからまずは2週間と1日、よろしくお願いします!」
家庭教師の人達がみんな凄い顔をして僕を見ていたけれど、何でだろうね?
最初は僕がソブリ伯爵に列せられたことを、チクチクネチネチと影で言う人が多かった。
僕は魔族だし、何の功績も無かったし、アリスタ以外の後ろ盾になってくれるような人もいなかったし、何なら財産も無かったからね。
アリスタの寵愛が妬ましかったんだろうけれど、散々な嫌がらせもされたよ。
とっても陰湿だったね!
でも良い経験になった。嫉妬すると人はこんなことをするんだって。
ハニートラップって言うの?女の人に襲われたこともあった。僕はわざと大きな悲鳴を上げながら窓から飛び降りて、空をちょっと飛んで無事に着地したけれど、そのまま気絶したふりをした。ここで無事だったら僕が女の人を襲ったって言いがかりを付けられるかも知れないからね。
僕にされた、そう言う嫌がらせを知ってアリスタは怒ったけれど、僕が平然としているからもっと怒っちゃった。
どうして怒らないのかって。こんなにも酷いことされたのに、と。
「だってアリスタは怒っている僕のこと、好き?」
「……いや、嫌いだが」
「僕はアリスタと一緒にいる時とっても幸せで、アリスタのことが世界一大好きなのに、どうして嫌なことを思い返して怒らなきゃいけないの?勿論、怒らなきゃいけない時は怒るけれど……」
「ふん。ハークをああも苛立たせただけはあるわ!」
アリスタは大笑いして、危害を加えられそうになったらすぐに言って欲しいことと、その時は遠慮無く対処しても良いぞって断言してくれた。アリスタにそこまで信じて貰えていることが嬉しかったなあ。
でも……その権限を行使する前に。ガブリエルさん達がゴドノワをグングンと盛り上げていくにつれて……最終的に『ミスリル銀』の鉱脈がゴドノワで見つかったと知って、僕の悪口を言ったり、僕相手に嫌がらせをしたりする人は一人もいなくなっちゃった。
「皇帝陛下は素晴らしい先見の明をお持ちでいらっしゃる」
「よもやゴドノワに『ミスリル銀』の鉱脈があるとご存じだったとは……!」
「これも陛下には女神様のご加護があるからでございましょう」
おべっかというか、口先で褒めそやすというか。
心にもないことを平然と言える。
でも僕はそれに一々悲しんだり泣いたりしたくない。
だって人生2回目なんだから、人生の苦いことも甘いこともたっぷりと謳歌したいんだ。
「色んな面があって、人間って面白いね!」
そうアリスタに言ったら、
「……よくもまあ。全くエルマーは……」
驚いているのかな、感動しているのかな。もしかして呆れている?
あ、違う。笑いたいんだ。
――アリスタと僕は二人っきりになった途端に、声を上げて大笑いした。
二人きりになったら、僕達はうんと話し合うんだ。喧嘩もするんだ。ぶつかって、でもちゃんと最後は落ち着くところをお互いの納得の上で見つける。こんな風に涙がこぼれるまで笑い合える時もある。
デズ卿は相変わらず性格が悪いけれど、ご夫人がご懐妊されたらそっちに完全に構いっきりで僕達の方に来なくなってしまったから、かえって寂しいくらいだった。またいつものようなきつい嫌味を言ってくれないかなあ、毎日に刺激が無くてつまんないや。
出産祝いは何にしよう、って今日もアリスタと話しあう。
「出産の時に万が一のことがあると良くない、ゴドノワのハイ・ポーションでも贈っておくか?」
「うーん……それも大事だけれど、子供のおもちゃや絵本でも良いかもしれないね」
「そう言う贈り物をまとめて美しい箱に詰めたらどうだろう」
「良いね!開けたらビックリするかもね」
「宝箱のようにな」
僕達はそして、また一緒に笑った。
こうやって、二人で笑うと本当に楽しいし幸せだと思う。
アリスタもどうかそう思っていて欲しいし、もし僕がそう思わせてあげることが出来たら、僕の人生は最高だって言えないかな。
いや、違う。アリスタが幸せだって思ってくれたら、僕も最高に幸せだ。
アルセーヌさんとガブリエルさんのやること成すことが全て大当たりしたのもあって、内戦で疲弊した帝国の経済や民が少しずつ活気づいてきた。
多分これから、この帝国はもっと面白くなるだろうし、アリスタだって間違いなく面白くさせるだろう。
それを加速させるように僕の命の恩人二人は、もっともっと凄いものを今も生み出している。
――後世に、アリスタの治世がロースタレイ帝国の最大版図を誇った最盛期の始まりと言われ、アリスタ自身は議会制を確立させ世界の歴史に名を残す名君中の名君と称えられることを、僕達は知らない。
今日もアリスタと僕と子供達は、かけがえのない家族として、色んなことで喧嘩したり悩んだり、怒ったり嘆いたり笑ったり、そしてお腹が空いたらみんなで食卓を囲んで、それなりに賑やかに生きている。
どうか明日もアリスタと子供達が楽しいと思えることがありますように。
彼女達の笑顔が、僕の幸せでもあるのだから。
【完結】どすけべなスキルしか持っていないからって追放されました。――完全童貞ですが、真面目に生きていればきっと良いことありますよね?―― 2626 @evi2016
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