第53話 番外編② ペシミストのエルマー・3
アリスタに出会ったのはそんな時だった。
僕と同い年だろうに、とても難しそうな顔をしていたんだ。
きっと悩みや辛いことが沢山あるんだろうね。
僕はアリスタに純真無垢だときつい言葉を言って貰えて、ちょっと嬉しかった。
だってそうなんだもん。
僕は正真正銘の世間知らずなんだ。
狭いイリアディアの里に引き込もってずっと泣いていた。
そのままその泣き虫の僕は死んじゃった。
だから人生2回目の僕はもっと色々学んで考えて、僕で決めて、僕の人生をもっと良くして生きたい。
……でも、アリスタは血の繋がったお兄さんから命を狙われていると知って、心が苦しくなった。
僕はユリアリアを殺そうなんて考えたことも無かったのに、アリスタはお兄さんから……。
何とかアリスタを狙う暗殺者がアルセーヌさんにやっつけられて、アリスタも安全な館の中に戻ってきた。
「ごめんなさい」
僕はアリスタに謝った。
「知らなかった、で済ませて良いことじゃないです。皇女殿下にとても嫌な思いをさせました」
「いつものことだ。知ってはいるだろうが朕は実の叔父と腹違いの兄を相手取って内戦をしておるのだぞ。ついでに言うならば父は皇后共々、その叔父に毒殺された」
血なまぐさいなあ……嫌だなあ……。
でもそれは、実際にあったことなんだよね。
僕は考えてから、頷いた。
もう一度、頷いた。
「悲しかったのですね」
ややあってから、アリスタは呟いた。
「……母は朕のために自害した」
「辛かったのですね」
「どうしてうぬにそれが分かる」
「本当はね、分からないのです。皇女殿下の心や、悲しみを真に分かるのは皇女殿下だけですから。
僕は皇女殿下の悲痛の近似値を体験したことがあるだけなのです。僕の兄さんと姉さんが一昨年と去年の生贄だったから。くじ引きで決まったことだったので、どうしようもなかったのです。くじ引きさせたからって母さんは絶対に泣かないんです、我が子を殺したからそんな資格は無いって。今年は妹が引いちゃったのですけれど、僕が代わりになったんですよ。
でも運良く助かった。助けて貰った。僕も母さんも妹も、みんなも。
今だって死んじゃった家族のことを思うとどうしようもなく悲しいですけれど、何も感じられなくなるのは怖いから、まだ生きたいのです」
「生ぬるい理由だ」
「ええ。でも僕はそれで良いと思っています。だって、あんなにも美味しいお肉、初めて食べましたからね!」
「に、肉か……」
「ええ、ええ、お肉です!どれほど悲しくても僕はお腹が空くのです!
それは絶対に誰からも責められたり、悪く言われたりすることじゃないって僕は思っています。だって、それこそが生きているってことだと僕は考えていますから」
「……ふん。下らないが面白いな」
アリスタがようやく笑ったから、僕は凄く嬉しくなった。
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