第52話 番外編② ペシミストのエルマー・2

 火薬が見つかった頃、僕は思い切って母さんと話をした。

今まで泣いてばかりでちゃんと話していなかったから、泣いたり怒ったりもしたけれど、全部お互いにぶちまけて、言いたかったことを聞いた。ユリアリアが寝ている夜中に、朝方まで話した。

多分家族ってこうやって真剣にぶつかり合って、もしわかり合えなくてもお互いを尊重し合っていくから家族になるんだと思う。

「エルマー、お前はもう死んだと妾は思っている」母さんは僕を抱きしめて言った。「だから、自由に生きよ」

「うん。……母さん、ありがとう」

僕も母さんを抱きしめてほっぺたにキスをした。母さんは僕のおでこにキスをしてくれた。

「もう妾達のことは案じるな。充分にやっていけるでな」

「……。僕、これからアルセーヌさん達と一緒にいたい。あの人達と一緒だと、今まで知らなかったことを教えて貰えそうなんだ。

ううん、僕は学びたい。今まで泣いてばかりで何もしてこなかった。どうしようもないことをどうしようもないって思い込んでいた。もうそんなのは嫌だ。転んで痛い思いをしても良いから、前を向いて僕の足で歩きたいんだ」

母さんはちょっと笑った。とっても優しい笑顔だった。

「お前はもう14。己のことを己で決められる。決めたことに責任を持って生きていけ」

「うん!」


 だから、多分、僕と母さんが本当の意味で家族になったのはこの時だったと思うんだ。

ぶつかって、話し合って、喧嘩して、それでもやっていける本当の家族にようやくなれたんだって。

それまでは僕が殻にこもっていた上に、お互いの色々な事情の所為で僕達はぶつかり合ってさえいなかった。ありがとうね、母さん。


 ……。

フェンリルやニーズホッグへの恨みが無いって言ったら嘘にはなる。

今まで散々怖くて恐ろしい思いをさせられたから、嫌いだしちょっと怖い。

でも4凶獣が僕達を襲ったのは縄張りが荒らされたり、お腹が空いていたりするからで、それは誰でも生きていればどうしようもないことだったから。魔獣は魔力を持つ餌を食べないと本当の意味でお腹が一杯にならない。空腹は、誰にもどうしようも無いって分かっているから。

代わりに、僕達はフェンリル達に鎮魂の碑を建てて貰った。今まで生贄になった僕の家族や犠牲になった人の名前を大きな石に刻んで、女神様への祈りの言葉も刻んで、少しくらいの雨風じゃ倒れないように周りの土をしっかりと固めて貰う。

その中に刻まれた父さんや、兄さんや姉さんの名前を僕は指先でなぞって、ありがとう、と一人ごちた。

凄く身勝手ではあるけれど、父さん達のおかげで僕は今生きていられる。

だから、どれほど悲しくても忘れないよ。絶対に。いつまでも。


 ……ねえ。

母さんが言うには、僕はもう死んだも同然なんだよね?

ってことは、僕は今は人生2回目なんだよね?

2回目の人生までずっと泣いていたら、きっとつまんないだろうな。

よし。

今度の僕は楽天的になる。楽天的に考えて、楽天的に行動する。

前を向いて歩いて、転んでもそれを楽しみながら進もう。

きっととても難しいだろうけれど、人生2回目だから大丈夫!

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