少し永遠のクリスマスイヴ

清水らくは

少し永遠のクリスマスイヴ

 僕が初めてサンタクロースになったとき、プレゼントしたのは大きな絵だった。

 君が見たいと言ったから、クリスマスイヴに間に合うように急いで描いた。君のサンタクロースになりたかったんだ。

 絵を描くのは自分では得意だと思っていた。だから楽しんで描いたし、喜んでもらえると思った。

 後悔した。君は、僕よりも絵がうまいと、後で知ったのだ。

「画家になる」なんて言わなきゃよかった。



 夢なんてころころ変わる。アメリカで何億円も稼いでいる人の話を知って、僕はプロ野球選手になろうと思った。リトルリーグではそこそこやれていたので、自信があった。

「いつか日本シリーズでのホームランボールをあげるよ!」と言った。

 高校でなかなかレギュラーになれなかった。

 大学ではそこそこ活躍したが、ドラフトで指名されなかった。

 独立リーグを二年でやめた。

「練習試合で打ったホームランボールなんだ」頭をかきながら彼女に渡した。



 12月23日に雪が降った。倒木があり、電車が走っていないらしい。

「むりしなくていいよ。この前ちゃんと来てくれたじゃない」彼女のお母さんはそう言った。でも、僕はどうしても行かなければならないと思った。

 24日、僕は朝早く出発した。初めて地元のバスに乗った。雪の道をすいすいと走っていく。ただ、電車と違って2回の乗り換えが必要だった。

 バスを下りると、目の前に山がたくさんある。険しい道を進んでいかないと、彼女には会えない。

 30分ほど歩いて、ようやく君のいる場所にたどり着く。

「久しぶり。また、絵を描いてみたんだ。野球はもうやめちゃったからね。東京のビルの間から見えた飛行機だよ。ここじゃ絶対見れないだろ。今は、君が聞いたこともないような名前の会社で働いているよ。浄水器を売っているんだ。君は……いらないもんね。すごいきれいな空気のところなんだろ。来年も絵でいいかなあ? はは、サンタクロースの方がわがまま言っちゃだめだね」

 泣いてしまった。

 結局、一度も手渡すことはできなかったのだ。

 彼女の墓に手を当てる。ひんやりとしていた。

 永遠に会えないんだ。そう思ったけれど、よく考えたら僕もいつか彼女のいる世界へ行く。それが天国だったら、努力して行けるようにならないと。

 雪がちらつき始めた。時間がゆっくりと進んでいるのが分かった。君は笑ってくれているだろうか。君にもっと特別なものをあげられる人間になりたかった。本当は君からもプレゼントをもらいたかった。

 とても寒くなってきた。日が落ちる前に、帰らなければならない。

「じゃあ、これで。今年のクリスマスイヴは、久々に実家だよ。大きな靴下をぶら下げとこうかな。今年こそ君がサンタクロースになってくれるかもしれないからね」

 バス停に戻ってきたが、次のバスまでは1時間以上あった、語り掛ける相手のない時間は、永遠に感じられた。

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少し永遠のクリスマスイヴ 清水らくは @shimizurakuha

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