【桃生弥恵】( 4 )
※ 8月20日15時20分ごろ ※
不意に、周りの様子を再び気にする弥恵。
店内の様子が気になっているようだ。そろそろ、仕事にもどりたいのだろう。
「もう、よろしいですか?」
話を切り上げたそうだ。が、悠里はまだ話を続けたいらしく、新たな質問をなげかけた。
「三井那可子さんは、大学時代にもストーカー被害にあったそうですね」
それは今日、三井みすゞから聞いた情報だ。那可子と仲が良かった弥恵ならば、詳しく知っているかもしれない。けれど。
「あの時は、犯人が事故で亡くなって、有耶無耶になりました。あの……もうそろそろ仕事戻らせて頂きたいのですが」
流石に、時間切れだ。勤務中の人物を長く引き留めるのは良くない。子供の翡翠でも、その位はわかる。
「お引き留めして申し訳ありません。最後に一つだけ……」
悠里も、この質問で引き下がるようだ。
「これで最後ですよ」
と、弥恵は、少しだけ困った顔をしたが、応じてくれた。
「三井那可子さんと、佐藤真吾さん、大学時代は親しかったですか?」
悠里の最後の質問に、弥恵は拍子抜けなような顔をする。
なぜ、こんな質問をしたのか、意図をはかりかねている様子。
「ええ。同じサークルで、一緒に活動するグループに2人とも所属していましたから」
戸惑いながら、答えてくれた。それはとても、重要な証言だった。
「そうですか。お忙しい中、ありがとうございます」
悠里はそう礼を言うと、軽く頭を下げる。
「いえ、それでは失礼します」
そう、言葉を返した弥恵は、深々と頭を下げると、その場から離れようとした。
が。
「お姉さん、このパンケーキもワッフルもチョコパフェも美味しいです!」
瑠璃が元気いっぱいな声で、スイーツの感想を伝える。
一瞬面食らった顔をした弥恵だったが、にこにこと笑う瑠璃の表情を見て、ふっと口元が緩んだ。
「お口に合って良かったわ。いっぱい食べて凄いね」
笑顔でそう言葉返して、桃生は席から離れていった。
※ 8月20日16時00分ごろ ※
桃生弥恵の働く、カフェバーでのおやつを終え、探偵事務所に帰宅した翡翠達。
家には誰もいない。琥珀とあかねはまだ外のようだ。
翡翠と瑠璃は、リビング側のテーブルセットに座っていた。
リビングのソファーに、満足そうな表情で座り、テレビアニメの、オンデマンド配信を楽しんでいる瑠璃。
その隣に翡翠は座り、ダイニングの椅子に座る悠里に視線を向ける。
悠里は人差し指でこめかみをコツコツ叩き、何やら思案中だ。
桃生弥恵から聞き出した情報を踏まえ、今回の事件には、まだわからない事が多いからだろう。
けれど、わかっている事もある。
「那可子って人のストーカーの件、佐藤って人は意図的に隠たように思うけど」
翡翠の言葉に、悠里は頷く。
「ああ、私もお前と同意見だ。他にも、佐藤と那可子は大学時代、親しかったはずだが、それを隠そうともしていた件も、随分と不自然だな」
「婚約してんだから、過去に関わりがあってその縁で……ってのは自然な話だし、隠す必要性を感じないよなぁ……。
しかも、秘書の三井みすゞさんもその事を隠そうとしたのもさ……」
集まった証言の中に、不自然さを感じるものがある時点で、今回の事件には何かしらの裏があると、翡翠は考えてしまう。
「過去の関係に触れられたくない、何かがあるようだな」
悠里の言葉に、翡翠は頷く。
「過去にもストーカー被害にあってたっぽいし、その事となんか関わりあるかな?」
「その可能性はあるな。少し、彼らの過去にも焦点をあてて調査をするか……」
三井那可子とストーカー事件は、彼女が転落死した事件と繋がりがあるあもしれない。
佐藤真吾が、那可子との過去を隠そうとしたのも、事件に繋がる何かがあるから。その可能性がある。
三井那可子たちが大学時代に、どのような関係だったのか、探る必要がありそうだと、悠里は考えたのだろう。その意見に、翡翠も賛成だ。
「その辺は、警察にやらせる方が早くない?」
過去のことを調べるなら、公的機関である警察側で動いた方が、面倒が少なそうだと翡翠は思う。
「そうだな。紅月に連絡して調べさせよう」
悠里は頷くと、スマホを取り出し、操作をし始めた。
ふと気がつくと、隣でアニメを見ていた瑠璃がすやすやと寝息をたてていた。
炎天下、出掛けたこともあり、疲れたのだろう。
翡翠はソファーからそっと立ち上がる。
瑠璃が風邪をひかないようにしなければ。
そのための、タオルケットを取りに、翡翠は子供部屋へと向かった。
子持ち探偵神崎悠里の謎解き案件 ――婚約者転落死事件 Seika @seikak
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