怪蒐屋〜かいしゅうや〜 父親に売られた♀わたしを買った♂パパは、変態マッドサイエンティストでした…

深川我無

父が蒸発し、パパに買われる

前略、小幸こゆき


不出来な父を……赦して欲しい。

依子に先立たれ、お前には苦労ばかりかけた。

父親らしいことは何もしてやれなかった。

その挙げ句、

闇金にも手を出した。

趣味のギャンブルでも負債があることを告白します。ごめんなさい。


被害総額はちょっと想像もつかない。本当にごめんなさい。


これで最後だというのに、謝ってばかりだな…。


最後に一番の思い出を。

小さな君を連れて行った喫茶店のメロンソーダを覚えていますか…?

あの頃が、父さんの人生で最高の瞬間だった。


父親として最後に一言言わせて欲しい。

すぐにそこから逃げなさい。


              父より



 小幸は置手紙に絶句する。無駄な駄洒落と……の演出が癇に障るが、今はそれどころではない……。



 嫌な予感がする。


 産まれてこの方様々な不幸に見舞われてきたせいか、嫌な予感が外れたことはない…。


 小幸は大急ぎで荷物と貴重品をバッグに詰め込むと、住み慣れた襤褸アパートの玄関へと急いだ。



 「ほう…荷物を纏めて出てくるとは用意がいいな。お嬢ちゃん」


 小幸はあんぐりと口を開いたまま、開け放たれたドアの前に立つ黒スーツの男を見て固まった。


 「俺は須藤。見ての通り闇金業者だ」


 そう言って手渡された名刺を受け取り、小幸はどうも…と会釈する。


 「あんた、親父さんに売られたんだよ。さっそくで悪いが一緒に来てもらおうか? 手荒なことはしたくないんで、大人しく付いてきてくれると助かる」



 小幸の頭の中ではコンビニで流れていたおにぎりのテーマソングが繰り返されていた。


 三色おにぎりぎーりぎり…♪

 何が出るかはお楽しみ…♪


 …そういえば中身なんだったんだろう?…


 乗せられた黒ベンツの後部座席で、小幸はおにぎりの封を切った。


 齧ると中身は空だった。



「あの…須藤さん…?」


「なんだ?」


「コンビニでおにぎり買って、中身が無かったことってあります?」


「は?」


「いえ…中身が入ってなかったもので…」


 尻すぼみにボソボソと呟く小幸に、須藤は助手席のコンビニ弁当を押し付ける。


「色んな奴を見てきたが、あんたも大変だな。これ食って元気だせ…」



「どうも…」


 幕の内弁当を食べ終わり、連れてこられたのは郊外に佇む立派な屋敷だった。


 風俗嬢にでもさせられるのかと覚悟していた小幸は、それを見上げて再びポカンと口を開ける。


「ここの主人がお前の御主人様になる…まあ今風に言えばパパ活だな……。しっかり奉公して、綺麗になってシャバに戻りな」


 そう言って須藤は巨大な鉄の門の内側へと小幸を押しやり、自身は車に戻ってシッシッと手で小幸を促す。


 再び見上げた屋敷には、不吉な気配が漂っていた。


 酷く嫌な予感がした。




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