白痣の家

 

 その家はよく手入れされた四角い家だった。

 

 門の前に立った一本の街灯が、白い家の外装に反射して辺りをぼう……と仄白く照らしている。


 真っ白にベタ塗りされた長方形が三つ組み合わさって出来たような比較的モダンな造りで、一見するとおどろおどろしい呪いの家には到底思えない。


 庭の芝生は綺麗に刈り揃えられ、常緑樹の植木にも真新しい枝打ちの跡があった。


 誰かが手入れしているのだろうか……?


 今にも窓に明かりが灯って、中から人が出てくるような気配がある。



 そう思って小幸が窓を見ると、全ての窓が新聞で目張りされていた。

 

 

 全身に鳥肌が立った。

 

 やはり普通ではない。


 思わず博士の裾を握ると、博士はにぃと笑みを湛えてつぶやいた。 


「最初の難関はね……入ってすぐの玄関だよ。そこで何かしらの怪異に出くわさなければ、この家の呪いには辿り着けない……」


 そう言い終わると博士は門を押し開けた。


 蝶番のきぃぃぃ……と軋む音が暗い住宅地に木霊する。



「勝手に入っていいんですか……!?」


 藁をもすがる思いで博士の袖を引きながらこぼす小幸に、博士はポケットから取り出した鍵を掲げて言った。


「心配ご無用! 大家に許可は取ってある! 死人が出ても文句は無いというお墨付きだ……行くぞ小幸くん!!」


 ずるずると博士に引きずられるようにして小幸は玄関の前までやってきた。


 博士は小幸に鍵を手渡し、ドアを開くように身振りで促す。

 

「お……お邪魔します……」

 

 そう言って小幸はドアを開いた。

 


 しん……

 

 と静まり返った広い玄関の土間には、靴がきちんと並んでいる。

 

 本当に空き家なのかと、再び小幸は不安になった。

 

 ゆっくりと足を進め靴箱の前に立つと、小幸は自分の靴をどうするべきかと一瞬迷った。

 


 すっ……



 視界の隅で何かが動いた。


 咄嗟にそちらに目をやると、靴箱の向かいに設置された姿見に自分が写っていてドキリとする。



 ばくん、ばくん、と心臓が異様な拍動を刻んでいた。

 

 しかし鏡の存在で、さきほどの気配は気の所為だったと安堵が押し寄せる。

 

 もう一度見上げた姿見の中には、自分のかわりに



 白塗りの女が立っていた。

 

 血走った目は焦点が合わず、口からは泡状の血を吹き出している。

 

 布でぐるぐる巻きにされた身体の、ちょうど陰部のあたりから、じょろじょろと液体が溢れ出し足を伝って床に水たまりを作っていた。

 


 叫びそうになる小幸の口を、博士は後ろから押さえて囁いた。

 

「声を出すな……呪われるぞ? 我々の目指す呪いはもっと奥にある。この家の呪いの中枢とも呼ぶべきものだ……」


 半泣きになりながら小幸は何度も頷いた。


 小幸を落ち着かせるために博士は背中を優しくさすりながら、恍惚の表情で微笑んで言う。


「ぐふふふふ……君は本当に不幸体質だねえ……?」

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