私の黄金竜
暗黒星雲
第1話 転入生は可愛いあの娘
縮れた黄金色のくせ毛を男の子みたいに短くしているのが可愛い。中等部なのに初等部みたいな小柄な体も可愛い。そして、異常なまでに目力のある切れ上げった鋭い目元も素敵。
彼女はミリア公爵家のご令嬢、ウルファ・ラール・ミリア。
ミリア公爵家とは、私たちの国ラグナリア皇国の軍事部門を司っている名門だ。最高位の皇家と姻戚関係にあり、この皇国において第二位の高い地位にある。
そんな家のご令嬢が転入してきたのだからクラスは騒然とした。しかし、先生が簡単な紹介をしただけで彼女は一言も発せず席に着いた。私の隣に。
誕生日は? 好きな食べ物は? 好きなタイプは?
そんな事が気になるのは仕方がない。彼女の周りに何人もの男女が集まり話しかけたのだが、それらは全て無視された。彼女は表情を変えず「黙れ」と言った。その冷徹な雰囲気に気圧されたのか、皆が口を開けなくなっていた。
その後の授業もウルファは黙ったまま。彼女に声をかけようとする者は誰もいない。恐らく、委員長のグスタフが指示したのだろう。公爵家のご令嬢は気難しいので声をかけるなと。
我がラグナリア神聖学園は、ラグナリア皇家が主催する至高の教育機関。名門の子弟か、もしくは優秀な能力を持っていないと入学できない。だからと言って公爵家の、あんな美しい姫君が転入してくるなんて想定外だ。私はウルファの可憐な姿を脳内で何度も再生した。手を繋いで散歩したりお弁当を食べたり、一緒にお風呂に入ったり。
「ほう。百合妄想は結構だが脱衣は避けた方が無難だぞ」
「うるさいな。黙ってて」
「つれないねえ。次は選択授業だ。お前は魔法科だろ? 教室移動があるから、ボーっとしてると遅刻するぞ」
「わかってるから。至福の時間を邪魔しないで」
私の思考を読んだサンドラが突っ込みを入れてきた。こいつはいつも私の肩にちょこんと乗っかっている緋色のヤモリ。
「性的な妄想も大概にしろよ」
「内心の自由を侵さないで。どんな妄想に浸ろうが自由です」
「ああ自由だね。しかし、BL系の妄想を垂れ流しやがったら火を噴くからな」
「ふーん。そんな事をしたら凍結するわよ」
サンドラは私の思考が読めるし、私の妄想に一々意見してくるクソ真面目な不届き者だ。学園内でも大抵喧嘩腰で会話をしている。私にとって日常茶飯事なのだが、クラスメイトはドン引きしている。お陰様で私はクラス内では孤立気味だ。見渡すと他の生徒は既に移動していた。
この学園では使い魔としてペットの持ち込みが許可されている。だが、本当にペットを持ち込んでいるのは数名しかいない。そもそも、使い魔として使役できる小動物はとても希少なのだ。
私は席から立ち上がり次の授業で使う魔法科の教科書を掴んだのだが、私の上着の裾をちょんちょんと引っ張られた。誰? って思ったら、そこにいたのはあのウルファ姫だった。
「あの……魔法科の教室へ案内して。教科書も持ってないから見せて」
俯き加減に呟くその姿は!
超可愛い!
改めて惚れ直した。
「うん。行こうか」
私は羞恥で爆発しそうになりながら、目一杯さりげなく彼女の右手を掴んだ。そして、ウルファ姫と一緒に魔法科教室へと向かう。
「私はティーナ・シルヴェンよ。ティナって呼んで」
「うん」
唐突に私の視界はバラ色となった。
肩の上ではサンドラがケラケラと笑っているのだが無視。
心臓は激しく鼓動し、顔は火を噴いたように真っ赤に染まっていた。
鼻息も荒かったに違いない。
でもイイじゃない。ずっとずっと憧れていたあのウルファ姫が、私のクラスに転入してきたのだから。
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