第6話 起死回生の魔法? いいえ切り札はウルファです。

 周囲の温度が上がっていく。私のオーラは緋色から青白く変化した。制服や髪の毛が焦げる匂いが漂う……頃合いか。


「止めなさい」

「止めろ!」 


 ウルファちゃんとエヴェリーナ先生が私に飛び掛かってきた。あの、図体のバカでかいバズズリアの脇をすり抜けて。


 そして私はマットの上に押し倒される。


「冷静になりなさい。こんなレベルの魔力を放出したら校舎が全焼しますよ」

「そうだ。そこの阿呆が焼け死ぬのは構わんがサナが火傷を負う。気を付けろ」


 メチャ美人のエヴェリーナ先生とメチャ可愛いウルファ。二人とも髪の毛が少し焼け焦げてしまってた。確かに自制心を失っていたかもしれない。


「ごめんなさい。気を付けます」

「わかればいいのよ。じゃウルファ。片付けちゃいましょうか」

「はい」


 あの……先生。あの黒助をどうするの? 

 ウルファちゃんも人間の姿でどうするの? 竜の姿へと変化しなけりゃ黒助たちには勝てないんじゃないの?


 私の不安をよそに、立ち上がった二人は何か格闘技の構えをした。よくわからないけどメチャ強そうだ。


 しかし、黒助と青鬼、赤鬼も臨戦態勢に入った。連中の筋肉は膨れ上がり、体が二回りも大きくなった。大人と同じ位の青鬼と赤鬼は大人以上の体格になったし、黒助はもう化け物と言っていい位の筋肉だるまになっていた。ウルファとの身長差は1メートル位……圧倒的に不利だと思った。でも、ウルファとエヴェリーナ先生は全く諦めていなかった。


「構いませんね」

「もちろんよ。今日は思いっきり暴れなさい」

「はい」


 え?

 お二人は仲良し?

 それとも子弟関係?


 私の疑問にはお構いなく二人は戦い始めた。


 目にも止まらぬ速さで黒助の懐に飛び込んだウルファ強烈なローキックを叩き込んでいた。バランスを崩した黒助のみぞおちに渾身の鉄拳が炸裂し、ウルファの腕は肘くらいまであいつの腹にめり込んでいた……何て強さだ!


 そしてエヴェリーナ先生はというと、あからさまに体が大きい大男、青鬼と赤鬼相手に余裕で戦っていた。青鬼は脛を折られ、赤鬼は両肩の関節を外されて悶絶していた。こちらも圧倒的な力の差があったみたいだ。


 私はサナちゃんの首輪を外して口元に詰め込まれていたハンカチを取り去った。


「えええん。怖かった。ティナちゃんありがとう、ありがとう」


 私の豊満な胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。ちょっと制服が汚れちゃうけど、まあいいよ。私の胸で思いっきり泣いちゃって。


「ところでウルファさん。あなたはどうしてここにいたんですか?」

「えっと……ここでお昼のサンドイッチを食べて……」

「授業をサボってお昼寝。いい身分ですね」

「ごめんなさい」

沙苗さなえとティーナがいじめられている事、知ってたんでしょ?」

「はい」

「どうして助けてあげなかったの?」

「それは……竜神族の力をみだりに使ってはならないと……」

「人命や魂の尊厳にかかわる事であればその限りではないと、教えたはずですが?」

「はい。だから……」

「だからではありません。ここまで直接的な暴力を振るう相手であれば、それが竜神族であれば尚更、貴方が動かなくてはいけない。そういった倫理観や法規範を身に付けなさいと公爵様より申し付かっていたのではありませんか?」

「……」

 

 何だか知らないけど、ウルファちゃんはメチャ厳しくお説教されていたのだ。


 その後、幼年学校の自治会組織は解体されバズズリアたちは皇都から追放された。そして、あの黒竜を一撃で粉砕したウルファは魔王として崇拝される存在となった。ところが、彼女はミリア公爵家へ養子として迎え入れられることが決まり、私たちの学校から転出してしまった。

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