第5話 たぶん絶体絶命だと思う

 青鬼と赤鬼がエヴェリーナ先生に抱き付いて衣類を剥ぎ取ろうとするが、先生は毅然とした態度で二人を押しのけた。


「脱げばいいんでしょ。だからその子たちには手を出さないで」


 二人が離れてから先生は上着を脱いで床に放り投げた。そして白いブラウスにも手をかけそれも脱ぐ。続いて先生はスカートのホックを外した。フワフワのフレアスカートが床に落ち、先生の細くて長い脚が露わになった。このままじゃあ先生はレイプされる。私とサナちゃんも逃げられるとは限らない。


 黒助バズズリアがソファーから立ち上がった。自ら衣類を脱ぎつつ先生の方へと歩いていく。私は「止めて」と叫びながら黒助の腰に掴まったのだが簡単に払いのけられてしまった。


 そのまま壁の方へ突進して奥に積んであった体操用のマットの上に倒れてしまった。


「痛い」


 ぼそりと誰かが呟いた。誰かが私の下敷きになっているの??


「うるさい……昼寝の邪魔をするな」


 昼寝って、もうすぐ夕方なのに?? 私の胸の下から顔を出したのは竜神族の小柄な女の子、ウルファだった。彼女の声に気づいた黒助が振り向いた。


「いつからそこにいたんだ?」

「昼休みはもう終わったのか?」


 昼休みは三時間前に終わってる……。


「寝てたんだな。じゃあとっとと出て行け」

「そうだな」


 立ち上がったウルファは同年代の子と比べても明らかに小さい。色白で金髪で、瞳の色も金色で、お人形さんのようにメチャ可愛い。でも彼女は竜神族で一目置かれている存在。喧嘩してるところは誰も見た事がないがウルファは黒助より強いとの噂だった。その証拠に、黒助はウルファにだけは絡んでいない。


 竜神族の見た目は人間と同じだけど本体は巨大な竜。その竜の姿になれば黒竜なんて簡単にやっつけちゃうだろうって。でも、そんな事を期待するのは間違ってる。街中、しかも学校の中で竜になって戦うなんてありえないから。


 彼女は眼をこすりながら倉庫から出て行くのだが、首に縄をかけられて四つん這いになっているサナを見て足を止めた。


「そういう事だったのか。理解した。ここで私が見聞きしたことは全て報告する」

「校内自治に校長は口を出せないぞ」

「知ってる。しかし、これは竜神族の誇りを汚す行為だ。我らは他種族より大きな力を持っている。故に、他種族に対して寛容でなくてはならぬ。お前は人間族の少女や教師に乱暴を働くつもりだったのだろう。皇国親衛隊に知らせる。じゃあな」


 踵を返して外へと向かうウルファちゃん。

 何て貫禄なの!


 私は以前から彼女に憧れてた。けど、この件で心をグッと鷲掴みされた気分だ。この先、私の心は全てウルファに捧げる。


「行かせるな」


 黒助の一言で青鬼と赤鬼が動いてウルファの両腕を掴んで引き留めた。せっかく助かるかもしれないって時に、余計な事をする黒助だ。


「ウルファ。お前は肝が据わっている。俺の女にならないか? 女王になって俺と一緒にこの学校を支配しよう」


 えっ? 黒助は何を言ってんの? ウルファがこんな下衆の彼女になるなんてありえない。


「その話は断ったはずだ。何度も同じ事を言わせるな」


 毅然とした態度。

 メチャ格好イイ!


 でも、これは不味い状況なのでは……。


「わかった。じゃあ強引にヤル。ヤッちまえばこっちのもんだ。お前は俺の女になるしかない」


 コイツは本当に下衆だ。

 黒助はウルファちゃんにじりじりと歩み寄っていく。


 不味い。このままじゃ不味い。


 私はどうしたら……やはり使うしかないのか。


 学校では絶対に使ってはいけないと厳重に注意されている私の力。それは炎の魔法だ。でもやるしかない。私の魔法でこの倉庫を燃やしてしまえば消火隊の大人が集まって来る。そうなったらあの黒助が無事で済むはずがない。今までやって来た悪事が全部バレるに決まっている。


 私は意識を集中する。炎の精霊界と同調するために。

 

 今、私の瞳は緋色に輝いているだろう。私の体は淡い炎のオーラに包まれた。目標は黒助、黒竜のバズズリアだ。

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