第4話 陰惨な記憶

「そこのおデブちゃん。こっちに来て肩を揉め」


 倉庫の暗がりの中で命令された。デブと言われるのは屈辱だ。


「何してんだ? お前が動かないとこいつを蹴るぞ」


 大人より体が大きな黒竜のバズズリア。この幼年学校の王だ。この大男が足蹴にしているのが私の友人サナ。首に縄を掛けられ、下着姿で四つん這いになっている。私たち人間族はいつもこの外道に虐げられていた。


 ラグナリア皇国の首都ジーフレラ。ここはその一角にある幼年学校で主に平民の子供が通っている。市の管轄なのだが、伝統的に竜神族の児童が王となり学内の自治を行っていた。多様な種族が集うこのラグナリアでは種族間の諍いが起こりやすい。竜神族は平民でも準貴族扱いされ、力も強いのでこういう役目は最適なのだという。長い間、犯罪やイジメ、差別などが起きぬよう目を光らせていた。しかしそれは、竜神族の王が人格者であった場合にのみ成しえる事だ。不届き者が王として君臨するなら悲惨な結果となる。私たち人間族はラグナリアの主要五種族にも入っていない少数民族なのだ。


 私は黒竜の背に回って両肩を掴み、バズズリアの肩を力を込めて揉んだ。私の握力では全然効かないんじゃないかって位の固い筋肉だった。


「この馬鹿。力を入れたら痛いじゃないか」

「はい?」


 私は力を抜いて奴の肩をさすったのだが両脇にいた奴の手下に腕を掴まれてしまった。


「手じゃなくてもっと柔らかいを押し付けるんだよ」

「柔らかいとこって何処よ」

「お前が唯一自慢できるとこだよ」


 奴の手下に背を押され奴の背中に私の胸が押し付けられた。


「お、いいね。もっとグリグリとこすりつけろ」

「いやだ」

「駄々こねてんじゃねえよ。オラオラ」


 両脇から二人掛りで押され、左右に揺さぶられる。バズズリアの大きな背に胸が押し付けられる。サナが傷つけられるのは耐えられない。私は仕方なく自分から胸を押し付けて体を動かした。


「ううう……」


 サナは口にハンカチを押し込まれ、さるぐつわをはめられている。彼女は涙を流しながら呻いている。


「なあ王様。ここままヤッちゃいましょうよ」

「俺はこのおデブちゃんのおっぱいを思う存分しゃぶりてえ」


 鬼の姿の二人がバズズリアに嘆願するのだが、奴は首を横に振った。


「馬鹿。お前らは毛も生えてねえガキを抱きたいのか?」

「この際ガキでもいいじゃねえか。コイツのおっぱいは大人顔負けだしな」

「焦るな馬鹿。俺に良い策があるんだよ」


 良い策とは何だろうか。大人をどうにかできるとでも? そう思った瞬間に小柄な白い蛇がにゅるりとバズズリアの肩の上に現れた。


「首尾は上々」

「わかった」


 この蛇はバズズリアの使い魔なのだろう。簡単な報告を済ませ、私をじろりと睨んでから消えてしまった。


「王様。何をしたのですか?」

「美人教師を呼びつけた。このガキをダシにしてな」

「もしかしてエヴェリーナ先生」

「色白で銀髪。スタイル抜群のやりたい女ナンバーワンじゃねえか」

「なあ王様。俺たちも良いんだろ?」

「俺の後にな」

「ひゃはあ!」

「うっひょお!」


 青鬼と赤鬼の二人が飛び上がって喜んでいる。私たちを人質にして、美人の先生をレイプしようとしているんだ。胸糞が悪くなってきた。


「呼んだのは貴方たち?? 何これ。貴方たちは何をやっているの?」


 倉庫の入り口に立っていたのは銀色の髪のエヴェリーナ先生だった。


「一人で来たな」

「もちろんです。約束通り私はここに来た。さあ、その子たちを開放しなさい」

「偉そうに。人間風情が」

「種族は関係ありません。過去の事はともかく、現在では平等の権利を有しています」

「先生は気が強いなあ。さて、服を脱いでもらおうか?」

「どうして私が?」

「俺が、王様があんたの裸を見たいんだよ。脱がなきゃそこで四つん這いになっているガキを犯す。それでも脱がなきゃ俺の背中にへばり付いてるデブを犯す。どうする? 俺はどっちでもいいぜ」

「何故、こんな事を……」

「ああ、このガキが俺に茶をぶっかけたんだよ」

「嘘でしょ。サナがそんな事をするわけない」

「そうだ。そこにいる青鬼がサナちゃんの脚を引っかけたんだ。それでサナちゃんは転んで、その拍子にお茶をこぼした。そこの黒助にほんのちょっとかかっただけだ」


 私は一気にまくし立てた。お茶を運んでいたサナちゃんをわざと転ばせた。そして、お茶がかかったと被害者面をして、謝罪させるためだとサナちゃんを倉庫へ連れ込んだ。私は彼女を一人にできないから一緒に倉庫へと入った。


 エヴェリーナ先生は身動きもできず立ちすくんでいた。そんな先生に青鬼と赤鬼が襲い掛かった。


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