第3話 首謀者はだれ?

 教室内は騒然としていた。何人かは悲鳴を上げていたし、気持ちわるいとか吐きそうとか、そんな声も聞かれた。


「さあ、みんな下がって。手を触れないで」


 仕切っているのはグスタフ、我がクラスの学級委員長だ。こいつは鬼族で肌は青白いし額には短い二本の角がある。他のクラスメイトは皇国の方針に従い、人間の姿へと変化しているのだが、コイツだけは種族のアイデンティティを大切にしているらしい。


「大丈夫かい? 保健室に行こうか?」


 グスタフは優し気に声をかけるのだが、姫の対応は素っ気なかった。


「掃除用具は何処だ」


 この死骸の山を片付けるつもりらしい。しかし、私は姫の手を引いて教室の外へ出た。「気分が悪くなったので保健室に行きます」と言って。


「ティナ。大丈夫か?」

「ええ、大丈夫。こっちよ」


 私は保健室へは向かわず、校舎を出て中庭のベンチに陣取った。


「ああ。胸糞悪い」

「そうだな。背中をさすろうか?」

「大丈夫よ。はらわたがグラグラと煮え立ってる」


 確かに気持ちが悪かった。しかし私はそれを上回るくらい腹立たしかった。


「ティナ。落ち着いて」

「いいえ。ウルファ姫を虐める腐れ外道は、この私が丸焼きにします」

「私が何とかする」

「だから、犯人は私が丸焼きに」

「それはダメだ。私がぶん殴る」

「え? 暴力は反対」

「丸焼きも暴力だが? 殴るよりも酷いぞ」

「そうかな……」

「そうだ。自重しろ」

「わかりました」


 極めて冷静なウルファ姫に説得された。ああ、直ぐに熱くなっちゃうところが私の欠点なんだよなあ。


「ところでティナ。あのトカゲは何処だ?」

「サンドラ?? あれ?」


 いつも私の肩の上にいるはずのサンドラがいなかった。私はピューっと口笛をふく。するといつの間にか緋色のヤモリ、サンドラが私の肩の上で寛いでいた。


「何処に行ってたの?」

「屋根の上で昼寝。今日は晴れてたから」

「干からびちゃうぞ」

「気にしない」

「ところでさ。教室の机の上、私とウルファ姫の机だけどね。ネズミの死骸がごっそりと乗っかってたの」

「そうみたいだな」

「アンタ知ってたの?」

「大騒ぎしてたからな。声で何があったか想像はつく」

「なるほど。現場は見てなかった」

「そうだ」


 これは当然か。コイツが私の机の中で昼寝をしてりゃラッキーだったんだが、そう上手く事が運ぶとは限らない。


「では、サンドラに命じる。教室に戻って私とウルファ姫の荷物を監視しろ。何か不審人物を見つけたらすぐに報告。いいな」

「何だって? 面倒くせえな」

「つべこべ言わない。おやつはカイコの幼虫。一日三匹でどう?」

「お、いいね。いつものコオロギは不味いんだよな」


 私の出した条件を気に入ってくれたらしい。サンドラはすうーっと姿を消した。見張りについてくれるようだ。学園の帰りに彼女のおやつを購入せねば……。


「ところでウルファ姫。犯人の目星は付いているんですか?」

「いや」

「わからないのに、どうして殴ると?」

「それはティナが物騒な事を言うから、私が代わりに」

「ダメです。公爵家の者が暴力事件なんか起こしたらどうなりますか?」

「体面上問題視されるな。下手すると勘当されるかもしれない」

「でしょ? だから、私が何とかします」

「何とかって……犯人の目星は付いているのか?」

「まあね」


 そう、心当たりがあった。私は幼年学校時代に凄惨ないじめを経験した。それがこの件に関係していると直感したからだ。

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