チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【59】お妃様が思惑通りに白雪姫を殺れていた場合のお話【なずみのホラー便 第156弾】

なずみ智子

お妃様が思惑通りに白雪姫を殺れていた場合のお話

【問題文】


 グリム童話「白雪姫」の粗筋については、あまりにも有名なうえに書くのが面倒くさいので省略しますが、本問題はお妃様が思惑通りに白雪姫を殺れていた場合のお話です。


 哀れ、本問題の白雪姫は七人の小人の家に辿り着くことすらなく、城内にてお妃様に殺害されました。

 白雪姫の盛大な葬儀が行われた夜、お妃様は例の鏡にお決まりの質問をしました。

 鏡の「世界一美しいのは、お妃様……あなたでございます」との思い通りの答えを自らの手によって導き出すことができたお妃様は大満足……まさに恍惚の境地でありました。


 しかし、それから数か月後の黄昏時、城内に凄まじい絶叫が響き渡ります。

 何事かと駆け付けた兵士や従者たちの目に飛び込んできたのは、炎と煙に包まれ、残酷な断末魔の”調べ”を奏でながら踊り続けるお妃様でした。

 お妃様は真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされてるようであるばかりか、真っ赤に焼けた鉄の鎧までもまとわされているかのようでありました。

 見物人は次々に増えていきましたが、もう誰も助けることができません。

 

 死のダンスを踊り続けていたお妃様がついに焼け焦げた肉の塊と化した時、とある兵士は集まっていた見物人たちの中に”絶対に有り得ない人物”が一人どころか、二人もいることに気づきました。

 そして、その二人の表情を見た兵士は、皆、薄々は分かってはいたけれども絶対に口に出せなかった憶測が真実であったことも悟りました。

 さて、この二人は誰と誰であったのでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : こ、これは……”本当は恐ろしい”どころか、ストレートにホラーな「白雪姫」ですね。集まっていた見物人の中にいた”絶対に有り得ない人物”とは”すでにこの世のものではない人物”、つまりは死霊であるかと思います。……この死霊の一体……いいえ、死霊の一人は白雪姫でしたか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : お妃様よりも美しかったというだけで命を奪われてしまったなんて理不尽にも程があるし、無念でしたでしょうね。死霊と化して、この世に留まらずにもいられないでしょう……。でも、もう一人、白雪姫と同じく、死霊と化した人がいて、お妃様の死のダンスを見物していたんですよね。もう一人の死霊は、白雪姫の実の母君でしたか?


チエコ先生 : NO。ちなみに、原作の「白雪姫」においては、白雪姫を殺そうとするのは継母じゃなくて実の母であるけれど、本問題では”お妃様=継母”という設定になっていることも、後出しで補足しておくわ。


キクちゃん : ……愛娘の成長を密かに見守っていた実の母君もまた、死霊というよりも怨霊と化して、娘とともに後妻(お妃様)に復讐したものだと思いました。となると、白雪姫ともう一人の死霊は母娘ではなく別の関係にあるってことですね。


チエコ先生 : 今回の問題を解く鍵は、死霊二人の関係よりも”時系列”を解き明かしていくことよ。


キクちゃん : 時系列ですか? ……もう一人が亡くなったのは、白雪姫が殺された前でしたか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : となると、白雪姫が殺された後にもう一人も亡くなりましたか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : ……その人は白雪姫の後を追って亡くなったのですか? 後追い自殺をしたとか……?


チエコ先生 : NO。”後を追って”はいないわ。でも、白雪姫が殺されたかがために、その人も死ぬことに……というよりも、殺されることになったのよ。


キクちゃん : 白雪姫が殺されたがために、その人も殺されることになったと? 白雪姫殺害の実行犯であったために、処刑されたのでしょうか? でも、殺害方法こそ問題文には明記されていませんけど、実際に白雪姫を手にかけたのは、お妃様ですよね。問題文には「城内にてお妃様に殺害されました」や「思い通りの答えを自らの手によって導き出すことができたお妃様は」と書かれていますから……。


チエコ先生 : そうよ。白雪姫を実際に手にかけたのはお妃様……。お妃様は「大事なことは自分の手できっちりとやらなきゃならなくてよ。人任せの実行なんて綻びの元でしかないわ。猟師に命じて森に連れ出させたうえで白雪姫の肝を取ってこさせたり、わざわざ面倒くさい変装をして毒林檎を食べさせりなんてまどろっこしいことをするつもりなんてさらさらない。白雪姫は私がこの手で確実に殺す。殺してやる」と、白雪姫の白い喉元を剣で切り裂いたの。


キクちゃん : …………喉を切り裂かれた白雪姫の遺体は、明らかな他殺体ですよね。森の中でならともかく、人の出入りが限られている城内で姫の他殺体が見つかったとなれば……直ちに犯人捜しが始まるうえ、アリバイや目撃証言から容疑者も相当に絞られると思うのですが…………あ! まさか、全くの無実の人が白雪姫殺害の犯人に仕立てあげられ、処刑されてしまったのですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : 問題文中の「真っ赤に焼けた鉄の鎧までもまとわされているかのようでありました」の”鎧”という言葉より、無実の罪を着せられ処刑されたのは兵士でしたか?


チエコ先生 : YES。正解よ。お妃様は白雪姫の名前を使い、事件現場となる部屋に”一人で来るように”若い兵士を呼び出していたの。ちょうど、白雪姫殺害”直後”のタイミングに居合わせるようにね。呼び出し通り一人でやってきた兵士の到着を見計らって大声で泣き叫んだ。顔やドレスに飛び散った返り血を誤魔化すために、自身は白雪姫の遺体を強く抱きしめてね。「この兵士が私の可愛い娘を殺したのです! 以前より、この男は白雪姫を獣のごとき目で見ておりました! そればかりか、ついに不埒な行為に及ぼうとして抵抗されたがために、白雪姫を殺したに違いありません!」ってね。若い兵士は必死に無実を訴えたけれども、お妃様には”自分以外の犯人の存在とその見せしめが必要不可欠”であったため、彼は白雪姫殺害の罪で首を刎ねられたの。


キクちゃん : 死霊二人の目撃者となった霊感持ちの別の兵士は、「その二人の表情を見た兵士は、皆、薄々は分かってはいたけれども絶対に口に出せなかった憶測が真実であった」と悟っていますね。白雪姫を殺したのは自分の同僚じゃなくて、やはりお妃様だったのだと……でも、お妃様という絶対的な権力には何人たりとも逆らえなかった。白雪姫と兵士がどんな顔で、黄昏時に炎ともに死のダンスを踊るお妃様を見ていたのかを想像すると背筋が凍りますね。…………国や世界観や粗筋は全く違いますけど、日本映画「八つ墓村」(1977年公開)のクライマックスシーンで、炎に包まれて滅びゆく多治見家を見下ろしていた落ち武者たちの姿と重なるような気がします。


チエコ先生 : ええ、実は先生もそうよ。特に尼子義孝を演じた故・夏八木勲さんの表情にはゾクッとしたわ。非業の死を遂げた者たちの魂の怨念が、観ている側の魂にまで冷たく浸み込んでくるようだったわ。



(完)

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