エピローグ -謎の進行-
「あ、死神だ」
「死神って?」
「この前アルチーノの配信で映ったプレイヤーだよ。ほら、トライグラニア周辺で初心者PKしまくって足止めしてる害悪プレイヤーキラーの話あったろ? そいつを配信映ってるのに首刈り取ってキルしてたから死神って呼ばれてんの」
俺がトライグラニアに戻るとじろじろと周りからの視線が増えた。
気のせいかと思ったけれど、どうやらアルチーノさんの配信に映ったのがきっかけで俺は"死神"と呼ばれるようになったらしい。
おかしいな。呼ばれてたのはあのクドラクってプレイヤーキラーのはずなんだけど……噂って本当にてきとうというか何というか。
「おーい! 配信見たぜ! 初心者狩りを返り討ちにするとかやるなぁ!」
「はは、どうも」
「アルチーノちゃんの彼氏とかだったりするのかー!?」
「いや、リアルで会った事もないんで……」
「うっわ、死神だ……」
「いやリットなんで……」
歩く度に話し掛けられたりコソコソ噂されたりと非常に歩きにくい。
アルチーノさんに協力して貰ったのは間違いでは無かったと思うけど、こうなるのは全く予想できなかったな。
幸い、無理についてこようとするプレイヤーがいないのは幸いか。
「ポンポンポンポン……通知が……」
その代わりなのかフレンド通知がいっぱい飛んでくる。
右上に表示される通知と通知音が気になって仕方ないが、アルチーノさんに助けを求めた結果だ。受け入れるしかない。
ああしなければトライグラニアはまだクドラクのPKに怯えながら辛気臭い町のままだったかもしれない。
今はクドラクがPKされた事でトライグラニアは次の町までの冒険に備えるプレイヤーでいっぱいだ。こうして活き活きとゲームを遊ぼうとするプレイヤー達がいるのは俺が望んだ光景でもある。
「ポーション足りねえって! 何か売ってさぁ!」
「王都まで行くより大森林で少しレベリングしてからのほうがいいでしょう」
「もう一人パーティ募集して……」
やっぱゲームはみんな楽しそうじゃないとな。
この場所で誰かに邪魔されて、なんて辛気臭い話は似合わないのだ。
「お、死神だ! なあなあ! パーティ組んでくれない!?」
「ごめんなさい、友達と約束があるんで」
そんな風に色々な人に声を掛けられながら、俺はトライグラニアを通り過ぎる。
パレットラモードからわざわざ戻ってきたのはただプレイヤーの人達の顔を見るためにきたわけじゃない。ニーナとの待ち合わせ場所が戻った先にあるだけだ。
先に不安が無くなったなら一旦方針の再確認をと俺はエリアアリシアへと歩を進めた。
グラニア渓谷に入るとトライグラニアで通行止めされる理由が無くなったからか、見かけるプレイヤーも多少減っていた。見掛けるプレイヤーも仕方なくここにいるというよりはレベル上げのためにここにいる人達ばかりのようだ。
少し微笑ましい気持ちになったが、まじまじと見ていると変な誤解をされそうなのですぐに通り過ぎる。
経験値の横取りはマナー違反。それでなくても死神死神と呼ばれている今、俺がプレイヤーキラーと誤解されてもおかしくない。
俺は誰も見ていない事を確認しながらグラニア渓谷の谷を下りた。
川の音が大きく、ここにはモンスターも少ない。
途中まエリアアリシアの入り口がある付近まで川岸を歩いて、再び周りを確認。
……他プレイヤーは周りにいない、よな?
ニーナみたいに(隠密)スキルがあればこんなに気にしなくていいんだろうな。
俺も(隠密)スキル取るか? いやでもな、性格的に隠密が向いてないよな俺。
「取れたら取るかー……」
恐らく取らない人間の台詞を吐きながら俺は川へと飛び込む。
飛び込みながら思ったが、エリアアリシア抜きにしても人が川になんて誰かに見られていたら事件かもしれない。
最初ほど苦戦する事も無く川底をタッチしてエリアアリシアへと転送される。
犬かきなのは変わらないが、じたばたするだけの犬かきからスマートな犬かきへと進化したのである。主に(水泳)スキルのおかげでね!
転送された先は相変わらず砂浜に波紋の全くない静かな水面をした池。
池の中心には小屋のような人工物が前に見た時と寸分変わらぬ姿で建っていた、
……そういえば洞窟っぽいのに明かりはどうなってるんだろうこれ。暗いけど見えないという感じではないくらいには視界が保たれてるんだよな。
相変わらず、恐いくらいに静かだ。
「ニーナはまだか……火でも起こして待って――」
そんな静かなエリアアリシアに突如通知音が鳴る。
おかしいな、フレンド通知は止まったはずなのに。
俺は左上の通知を確認すると、目の前にウィンドウが開く。
フレンド通知……フレンド通知……ええい、フレンド通知はもういい!
放置していたフレンド通知を削除して、最後に来た通知を確認する。
ゲームだと普通なのかもしれないが、てきとうに飛ばしてきたフレンド通知には応える気にはなれない。
「……なんだ?」
フレンド通知の波が終わり、最後の通知がウィンドウとなって目の前に開かれる。
それはクエストの進行通知。
だが……そこに書かれていたテキストに俺は驚愕した。
『永久世界ユークロニアに存在する魔術師を倒した事によってクエスト「望郷のアフェクシオン」が進行しました』
『スキル「永久への鍵」を取得しました』
『スキル「霊能力者」を取得しました』
『アイテム「枯れる事無き種」を獲得しました』
『アイテム「ダリアサイズ」を獲得しました』
『???「ネームレスシーク」を獲得しました』
『称号「ユークロニアの住人」を獲得しました』
クエスト進行に伴う報酬の通知。
新しいスキルに新しいアイテム、称号に謎の何か。
いつもならどれから見ていこうかなどと考える所だが……流石の俺でも何を一番に気にするべきかわかる。
それは最初のクエスト進行の通知に表示されたウィンドウに書かれている魔術師の文字。
待て待て。いくらなんでもそれはおかしいだろ。
「おい……何で公式テキストに魔術師なんてワードが出るんだよ……!?」
魔術師。
それらはゲーム内の世界観とは関係無い、ニーナやアルチーノさんといった魔術師の家系だった人達が現実から持ち込んでいるワードであり事情。
まるでそういった事情を持つプレイヤー達がゲーム内にいるのが当然であるかのように表示されるテキストを見て、俺は再びあの声を思い出す。
――ようこそ、仮想現実へ。
仮想と現実が混ざり合うこの世界へ誘うあの声を。
――――――――
お読み頂きありがとうございます。
第一部としてここで一区切りとなります。続きは新作の後になるので未定ですが、よろしければ待って頂けると嬉しいです。
エタニティ・ブループリント -初めて歩いたのは現実ではなく仮想現実でした- らむなべ @ramunabe
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