27.支えられて、支えて
side:東雲律人
「ふー……」
クドラクを倒した俺はアルチーノさんが「
「あー、楽しかった。PvPって経験値は貰えないんだ……あ」
「おかえり律人君」
ヘッドギアを外して現実に戻るとそこは病院の特別病棟。
そばの椅子では賀茂先生がにこにこしながら座っていた。
怒ってる……そりゃそうだ。賀茂先生は何か事情があるのを察してくれて忙しい中、保管していたテスター用のパソコンとヘッドギアをこっそり特別病棟の個室に運んでくれただけではなく、俺がログインしている間見守ってくれていた。
だというのにログアウトして最初の一言が、楽しかった、では納得しないだろう。俺がログインしている間も心配してくれていただろうに当の本人はゲームを楽しんだだけにしか見えないんだから。
「あ、いや、遊んでいたわけじゃ……いやゲームをしてたから遊んでないわけでもないんですけど……なんというか……!」
「……私は嬉しいよ」
「え?」
その声色は怒っているわけではなさそうだった。
俺が怒っていると勘違いした笑みはどうやらそのまま賀茂先生の素直な感情らしい。
「入院している間、君が楽しそうにしている所を見た事無かった。どんな映画を見せても、アニメを見せても、漫才やテレビ番組、配信者の配信……私がどんな話をしても君は笑わなかった」
「い、いや、賀茂先生に見せて貰ってたのも面白かったですよ?」
「ははは、大人を舐めないでくれ。これでもね、上っ面の笑顔と心の底からの笑顔の区別くらいはつく。君は私達に気を遣って笑顔を浮かべていただけだ。わかるよ」
「……」
俺は何も言えなかった。気を遣っているつもりはなかったけれど、入院している間の笑顔のほとんどが大袈裟に笑ってみせていたのは否定できなかったから。
だって、笑顔を浮かべないと報われないと思っていた。
治る見込みのない自分に時間を使ってくれる人達に、治る事で報いたかったけど……俺はそうする事ができなかったから。
ずっと担当だった事もあって賀茂先生はそんな俺の事を見抜いていたようだ。
当たり前か。下手したら親よりも俺を見ていた人だもんな。
「私は嬉しいよ。こんな風に我が儘を言って貰えて。そして君が嬉しそうで。ようやく君の人生は夜明けを迎えたんだ」
「賀茂先生、意外に詩的だな」
「感慨深くてついね……看護師のみんなには内緒にしてくれたまえ。恥ずかしいからね」
賀茂先生は椅子から立ち上がり、俺に杖を差し出してくる。俺はヘッドギアを置いて杖を受け取るとベッドから立ち上がった。
「っ……! っぐ……!?」
すると、エタブル内でクドラクに斬られた部分に痛みが走る。
特に痛むのは抉られた右肩と装備を叩き割られた肩から腹にかけて。
杖で支え切れず、倒れそうになる所を賀茂先生が支えてくれた。
「どうした!?」
「い、いえ……」
もしかして本人にやる気があるかどうかが影響するのか?
ゲーム内のポーションのおかげか立てないほどじゃない。本当に斬られたままならこんな痛みじゃないだろうしな。
「立てるかね?」
「え、ええ……すいません……」
痛みを抜きにしても動かしにくい体が現実に戻ってきたと実感させる。
なんにせよ、俺は俺なりに動けたんじゃなかろうか。
「それで? ヒーローにはなれたのかい? 女の子を助けに行ったんだろう?」
賀茂先生は扉を開けながら問う。
答えを聞くまでもない癖に、そうやって俺の口から言わせようとするのはなんというか大人の余裕を感じた。
「ヒーローになれたかはわからないけど……助けられたとは思います」
「そうか、いい事をしたね」
途中から楽しんじゃったからなぁ、作戦が思い通りになった嬉しさとかPvPの楽しさとかで。
ニーナがどう思っているかは正直よくわからないけど、
「……約束は守れたよな」
友達と最初にした約束だったから守れてよかった。
side:ニーナ
「アルチーノちゃん、助けてくれてありがとうございます」
「いやいや、私は配信つけながらここに来ただけだから。お礼はもっとリットくんに言ってあげなって。変な子だけどすごいよあれ」
「はい……」
リットくんがログアウトした後、私はアルチーノちゃんにパレットラモードを軽く案内して貰っていた。
配信終わりに申し訳ないと思ったけれど、アルチーノちゃんは私が心細いかもしれないと気遣ってくれているようだった。同い年なはずなのにお姉さんみたい。
パレットラモードは丸っこい建物ばかりで可愛らしい町だった。トライグラニアが無骨な大都市といった雰囲気なのもあって全体的に明るく見える。
町並みもカラフルで配信映えしそうな変なお店もある。アルチーノちゃんが拠点にしているのも少し納得。
「それにしても
「アルチーノちゃんもやっぱり知らなかったんですか?」
「知ってたら最初に会った時に教えてたってば。私は配信もあって目立つから
「あ、なるほど」
言われてみれば、基本的に存在を秘匿する
取り込むために色々するよりは遠巻きに監視したほうが効率はいいと思う。監視も配信を追えばある程度の動向は掴めるからそっちのほうが楽だと判断されたのかもしれない。
「ま、でも一番の驚きはやっぱりリットくんだよね。病院に行ってる時にニーナちゃんからのメッセージ見て即助けに来てくれるとかすっごいい子」
「はい……本当に、感謝してもしきれないというか……」
「まさにニーナちゃんにとっての王子様って感じ! いや王子様っていうより戦闘狂って感じだったけど……うん、あれを王子様なんて爽やか呼びは無理あるわ……」
「あ、あはは……」
アルチーノちゃんに釣られて私もつい苦笑いを浮かべてしまう。
でもリットくんが言った通り助けに来てくれた事が私にとっては何よりも嬉しかった。
こんな我が儘な私の声を、聞いてくれる人がいるんだって安心できたから。
「いいわねー……あんな頼もしい子がいて」
「はい、本当に」
「でも、何で病院からなんて……どっか悪いのかな?」
「あ……」
言われてみればプレイヤーキラーを倒してくれた事に安心しきってリットくんが何でそんな所からログインしているのか聞きそびれていた。
病院にフルダイブ用のヘッドギアがあるのも謎だ。
リットくんとはあまりリアルの話をしないから何もわからない。
今まではそれでいいと思っていたけれど……。
「入院していたって話は前に少し聞いた事がありますけど、詳しくは……」
「リアルは病弱少年なのかね?」
「かも、しれないですね……」
何故だろう。前よりも気になってきた。
仮想のはずの心臓がほんの少しだけ早くなっていくのを感じる。
病気なのかな。もしかしたらよほど無理して来てくれたのだろうか。
何でそこまでしてくれるんだろう。あんな風に何で戦えるんだろう。
今までこちらの事情に一方的に付き合って貰っていた事が多かったから聞く機会どころか、聞こうとすらしていなかったのに。
今はこんなにも、彼の事が知りたくなっている。
「気になるならお見舞いがてらリアルで会っちゃえば?」
「……え? へ!?」
ゲーム内じゃなくてリアルで会う!?
アルチーノちゃんは何を言っているのか一瞬理解できず、口をぱくぱくとさせてしまった。
そんな私の反応が不可解だったのか、アルチーノちゃんは首を傾げた。
「え? 何かおかしい? お世話になった人が病気か怪我かもしれないんだよ? オフでお見舞いに行ってもおかしくなくない?」
「そ、そうなんでしょうか……?」
「ま、確かに男の子一人に女の子一人でってのは流石に抵抗あるか」
「そ、そうですよ! 不健全です! 不健全!」
とか何とか言いつつ、私は満更でもなかったりする。
もしリットくんが迷惑でないのなら直接会ってお礼を言いたかった。
り、リットくん教えてくれるかな……?
「あ、アルチーノちゃんも……とかは……?」
「いやいやいや何言ってるの! 若いお二人の間に入るほど私も野暮じゃないよ……アルチーノちゃんはクールに――」
「……? 同い年、ですよね? プロフィールは17歳でしたよ?」
「やっべ」
あれ? 同い年……なんだよね?
この後、本当に年上のお姉さんだった事を私は知るのであった。
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