fin.
碧月 葉
fin.
ブランマンジェにラズベリーソースをかけたみたいだ。
そんな風に考えてしまう自分が可笑しくて、私は視線を上に変えた。
先程まで荒れていた空は、いつの間にか澄ました青色に変わっていた。
ブルートパーズのような空に、もこっとした白い雲がひとつ。
あいつなら、きっとあれを綿菓子に例えるだろう。
スイーツの事しか考えていない、ヘンテコな勇者。
魔王を倒す旅のはずが、いく先々の街で菓子店を巡った。
訪れた数々の村で、郷土菓子を習った。
依頼の報酬が「レシピ」なんてことも珍しく無く、路銀は常にカツカツの貧乏旅。
けれど、あいつの食へのこだわりは徹底していて、食事はいつも最高に美味しかった。
野営の時にあいつがよく作ってくれたイチゴとブルーベリーのフルーツピザは、絶品だったけ。
「この旅が終わったら……なぁラウラ、店を構えるか、世界を回って菓子の露店を出すかどっちがいいかな?」
なんて言ってたのに。
ヨハンったら……。
首都の空もこんな風に晴れているのかな?
今日は叙位式、魔王を倒した勇者に王様が公爵位をくれるんだってさ。
噂では王女様との婚約も発表されるなんて言われている。
あいつ、そのうち王様になっちゃうかもね。
それを見れないのが、残念なようなホッとしたような。
あーあ、軽率だったな。
魔王軍の第2軍団長とひとりでやり合うことになるなんて。
北部地方で討ち漏らした凶悪魔族に関する不穏な噂があったから、王様の式典には魔法でコピーを送り、私はこっちの調査にやってきた。
向こうに行きたくなかったから、行かない言い訳づくりのつもりだったのに……まさかの大当たり。
そしてガチンコやり合って、相打ち。
向こうは首が飛んで、私の腹には大穴が空いた。
穴からは、今も真紅の液体が流れ出て雪を溶かして染めている。
マズい、目が霞んできた。
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ…………。
足音が近づいてくる?
狼? 魔物?
血の匂いに誘われたか。
このまま食べられて……私、骨も残んないのかな。
色々頑張ってきたつもりだけれど、最期はこんなもんか。
ヨハン……やっぱりもう一度会いたかったな。
「ラウラ。ブランマンジェにラズベリーソースをかけたみたいになっちゃってるよ」
—— えっ?
お腹が温かくなる。回復魔法だ。
首都に居るはずの彼がここに居る。
「ヨハンっ、何で?」
「君のコピー、よく出来すぎ……見抜くのに時間かかっちゃたよ。全く、サボるなら俺にも言ってよ」
「何やってるの? 王様は? 王女様は?」
「ナニソレオイシイノ?」
ヨハンは思いっきり変顔をして見せた。
「ちょっと、笑わせないで……まだ穴塞がってないんだから」
「ごめんごめん。面倒なのは全部断って逃げてきた。金や地位や名声が欲しくてあんなしてきた訳じゃない」
「……全てはお菓子のためでしょ」
「その通り。だからラウラ、君を迎えに来た」
「私?」
「だって、イザークもマルクスも食べるが専門だったろ。ラウラはレシピも楽しそうに聞いていたもんな。一緒に菓子店をやろう」
「良かった。再就職先探してたの」
私はヨハンの手を取った。
その時、彼の目が輝いた。
「ラウラ! 見てよあの雲、あれさ、実はこの前俺が作って魔法で浮かせたヤツなんだ。凄いだろ、世界一でっかい綿菓子‼︎」
—— おしまい——
fin. 碧月 葉 @momobeko
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