妹の属性を見抜けなかった兄の顛末

 ……若牛丸を引き入れてからの源氏の反抗は、それはもう目を見張るものであった。

 彼女が優れた指揮官であったことも理由の一つだが、最大の要因は属性過多が過ぎる彼女自身にある。


 平家が作り出した巨乳美女を超える爆乳美少女が指揮官としてやって来たことに兵士は狂気乱舞し、天然ものの爆乳を揺らしながら指揮を執る彼女の姿に兵たちの士気は天元突破。

 逆に秘薬を使っても叶わないほどのサイズと柔らかさを誇る若牛丸の爆乳が跳ね回る様を目にした平家の兵たちは「ドーピングおっぱいって虚しくね? しかも負けてるし……」と一気にテンションが落ち、ここに双方の士気は完全なる逆転の時を迎えた。


 更に若牛丸のファンになった武将やシンプルに強い方に付く卑怯者、「実は俺、お尻派だったんだよね」という男たちが平家を裏切った結果、兵力も逆転。

 平家も必死に抵抗したが、若牛丸の活躍の前にその防戦も容易く粉砕されていった。


 一ノ谷の戦いでは彼女の丸々とした桃のような巨尻に目を奪われた牡馬たちが崖をものともせずに下っていったことで奇襲が成功、平家の軍を打ち破った。

 壇ノ浦の戦いでも船を次々と飛び移って敵を倒す八艘飛びを披露。ジャンプする度に跳ね回る爆乳に気を取られた船の漕ぎ手たちは動きを止めてしまい、平家の水軍は動くこともままならなくなったことで壊滅的な打撃を受けた。


 その後、平家の当主であったが胸盛が秘薬を使った娘たちを超える天然もの爆乳を持つ若牛丸の活躍に憤慨。

 自らの手で彼女を処そうとしたが、平家軍を破って自分の下にやってきた友頼に斬られ、呆気なく命を落とす。

(後年の研究では、その爆乳が好みにドストライクだったため、妾にしようとあの手この手を尽くした結果、妹を守るべく前線に出た友頼に討たれたのでは? という説も上がっている)

 

 「友頼の目の前で妹のおっぱいを滅茶苦茶に揉んでやりたかった」というあまりにも残念な最期の言葉を憐れんだ友頼が、胸盛の辞世の句を変えたことはあまりにも有名な話である。


 胸盛が没したことで限界を迎えた平家はその後の戦いで滅ぼされ、かくして「ぺったんことかちっぱいとかレアっぽい名前付けるなって、ただの貧乳だろ? 平らな胸の女は人じゃねえから!」という言葉を生み出した平家も滅亡の時を迎えた。


 互いに支え合い、助け合って父の仇を討った友頼と若牛丸は、この時抱き合って喜んだという。(戦いの疲れか、友頼の目は若干死んでいたという伝承も残っている)


 その後は友頼を大将軍とした源氏中心の武家幕府が設立され、長きに渡って安寧の世を作り出した。

 仲睦ましかった兄妹は次第に険悪になり、仲違いの末に友頼が若牛丸を討つという悲劇的な結末を迎えたというのが通説だが……近年の研究によって、次のようなやり取りがあった可能性が高いという結果が出ている。










「若牛丸よ、これにて今生の別れだ。今日を以て名を捨て、自由に生きるがいい」


「そんな……!? 何故です、兄上!?」


 とある夜、人気のない邸宅に義妹を呼び出した友頼は、彼女へと重大な話をしていた。

 これが今生の別れという兄に対して涙を浮かべながらその理由を問う若牛丸へと、友頼が言う。


「お前もわかっていよう。天皇は、お前を妾として傍に置くつもりだ。世が乱れたのも、全ては巨乳好きのあの男が胸盛の後ろ盾となって人々に秘薬の接種を命じたのが原因。私は、愛する妹があのような男に汚されるのを見たくない」


「拙者なら大丈夫です! 天皇の手に落ちることなどありませぬ! それに、いざとなればあいつを斬ってしまえば――!!」


「ならん! 天皇の存在は国をまとめるために必要だ。それに、純粋無垢なお前が策謀に長けた天皇のお膝元で無事でいられるとは思えん。もう、こうするしかないのだ」


 苦し気に、搾り出すような声でそう語った友頼が拳を握り締める。

 若牛丸が兄を見つめる中、振り返った彼は覚悟を決めた表情を浮かべながら口を開いた。


「……天皇には、命令違反を理由にお前を処断したと伝える。それらしいうわさを流し、さも私が平家討伐の立役者であるお前に嫉妬したように見せかけてな」


「し、しかし、それでは兄上が――!!」


「構わん。大切な家族を守るためならば、私はどのような汚名でも喜んで被ってやろう」


 妹殺しの汚名を被り、後世に非道な男として伝えられることも恐れないと語った友頼が涙を流す若牛丸へと頷く。

 彼女の傍にしゃがみ、肩を優しく叩きながら、兄としての最後の言葉を贈っていった。


「若牛丸よ……この数年間、お前と共に駆け抜けた日々は楽しかった。お前が私の下に馳せ参じてくれたあの日のことは、今でもはっきりと覚えているぞ」


「せ、拙者もです……! 兄上に抱き締めてもらった時の温もりは、一生忘れることなど……う、ううっ……!」


「……もう、そんな言葉遣いをする必要もない。これからは男のように振る舞い、命を懸けた戦に臨む必要などないのだ」


「う、ううっ、嫌だよぉ。ボク、お兄ちゃんと離れたくないよぉ……!」


 ……正直に言えば、友頼だって若牛丸と別れるのはつらい。

 だが、これから始まる政治闘争に純粋な彼女が巻き込まれてしまえば、悲劇が待っていることは容易に想像がつく。


 大切な妹が心を擦り減らし、汚れていく様を見たくない……そこに自分のわがままが含まれていることはわかっていた。

 だが、それでも彼女にとって幸せなのはこの醜い政治という争いから離れることだと、そう思っているからこそ、友頼は若牛丸へと辛抱強く語り掛ける。


「若牛よ……お前は武士として生きるのではなく、女として生きよ。そして、幸せになってくれ」


「ぐすっ……! 女としての、幸せ……?」


「そうだ。愛する人と出会い、子を成し、家族を作れ。そうやってお前が幸せになるためなら、私はなんでもしてやる。愛する妹が幸せになってくれること……それこそが、私の望みなのだからな」


「……わかった。わかったよ、お兄ちゃん」


 若牛丸が自分の言葉に納得してくれたことに、安堵する友頼。

 彼は、これからのことを妹に話そうとしたのだが……その途端、ドンっと若牛丸に突き飛ばされて畳に尻餅をついてしまった。


「わ、若牛? どうし――」


「……ボクが幸せになることがお兄ちゃんの望みなんだよね? そのためなら、なんでもしてくれるんだよね? だったらさ――!!」


 ゆらりと、若牛丸が立ち上がる。

 彼女が放つ異様な迫力に圧されて身動きできない友頼の前で、月光に照らされながら……彼女は、着ている服を全て脱ぎ捨てた。


「わ、わ、わ、若牛丸!? な、何を……!?」


「何って、お兄ちゃんの言った通りにするんだよ。愛する人と、子供を作る……女としての幸せを、たっぷり味わおうと思ってさ……!!」


「ま、待て! 落ち着いて話を……!」


「だ~め♡ 落ち着かないし、お兄ちゃんと離れ離れにもならない♡ ボクが幸せになるために、お兄ちゃんにも手伝ってもらうんだから……♡」


 妖しい笑みを浮かべた若牛丸が、それはもう見事な爆乳を見せつけながら友頼に迫る。

 身動きできないでいる彼に圧し掛かり、顔を近付けた彼女は、耳元に唇を近付けると甘い声で囁いた。


「天狗の師匠から教わったのは、兵法や武術だけじゃないんだよ♡ 誰にも見せたことのないボクの特技……お兄ちゃんにだけ見せてあげるね♡ 本物の家族になろうね、あ♡な♡た♡」


「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ……!!」







 ……といった感じで、若牛丸に属性があることを見抜けなかった友頼は彼女に襲われてしまったそうな。

 その後、義兄妹とは違った形の家族になった二人は沢山の子供たちに囲まれながら、いつまでもいつまでも幸せに過ごしたという。


 めでたし、めでたし。

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源平合戦の真実~あるいは、色々と盛り過ぎな義妹に翻弄される源氏当主のラブコメ的苦悩~ 烏丸英 @karasuma-ei

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