色々と盛り過ぎな義妹と出会った源氏当主の苦悩

「今日で間違いないはずだな? 若牛丸わかうしまるがやって来るのは……!」


「その通りだと、先ほどもお答えしたでしょうに。まったく、今日の友頼殿は落ち着きがない。よっぽど義弟との再会が嬉しいと見える」


 長年、自分の補佐役を務めている白髪頭の側近の言葉に苦笑した友頼は、気恥ずかしさをごまかすように咳払いをしてからドカッと腰を下ろす。

 しかし、そうしてもそわそわとした落ち着かない様子は貧乏ゆすりをはじめとした様々な所作に出ており、その様子をまたしても側近にからかわれてしまった。


「普段の冷静さが嘘のようですな。それほどまでに心躍らせる姿、長年友頼殿のお世話をしている私も初めて見ますぞ」


「当然だ。死んだと思っていた弟に会えるのだからな」


 そう言いながら、懐に大事にしまっていた手紙を取り出す友頼。

 そこには兄である自分に向けられた、弟からのやや乱雑な字ながらも心が込められた文章が綴られていた。


「十数年ぶりか……! まさか、私以外にも生き延びた兄弟がいたとは……!!」


 友頼には自分を含め、十名の兄弟がいた。

 しかし、父が参加した平治の乱に敗北した際、平家の追討を受けた弟たちは落ち延びる最中に討ち取られ、無念の死を遂げていたのである。


 唯一の生き残りは長男であり、最も厳重に守られた自分だけ。

 弟たちを犠牲に生き延びたことを悔い続けてきた友頼は、音信不通だった末の弟からの手紙を受け取った際には天に昇るほどに歓喜した。


「しかし、血の繋がっていない義弟ですぞ? それほどまでに嬉しいものなのですか?」


「何を言うか! 血の繋がりなど関係ない! 私と若牛丸には強い心の結びつきがある!! だからこそ、あやつも危険を承知で我が軍に加わると言ってくれたのだ!」


 手紙によれば、平家の追討を逃れた若牛丸は山中の寺に預けられ、そこで天狗(?)から兵法や武術を学んだらしい。

 兄である自分を支えるため、友頼に合流すると書かれている手紙からは、若牛丸からの深い敬愛の念が感じ取れた。


 というわけで今、友頼は邸宅の離れで側近と二人きりで弟のことを待っていた。

 これは久々の再会は兄弟水入らずの方がいいだろうという部下たちの配慮あってのことで、友頼も彼らには感謝している。


(ほんの数日、共に過ごしただけの義兄弟だが……弟であることに変わりはない。本当に、生きていてくれてよかった……!!)


 まだほんの子供の頃の思い出ではあるが、父が引き取ってきた若牛丸とは楽しい日々を過ごした。

 すぐに戦が始まり、離れ離れになってしまったが……彼が大切な弟であることに変わりはない。


 その弟と十数年ぶりに再会できることを心の底から喜んでいる友頼の耳に、廊下を歩む足音が響く。


「おお! 来たか、若牛丸!!」


 足音が弟のものであると直感で気付いた友頼は、居ても立っても居られなくなって立ち上がると共に大声で叫んだ。

 その声に反応するように、廊下からも声が響いてきたのだが……それを耳にした彼は何か違和感を覚えると共に眉を顰める。


「そのお声は、兄上ですか!? 兄上っ! 兄上~っ!!」


「……うん?」


 廊下から聞こえてきたのは、まだ高い子供のような声だった。

 いや、今の声は子供のものというより、むしろ――と友頼が考えている間にドタドタと足音が近付き、勢いよくふすまが開く。

 そして、そこから姿を現した人物は、満面の笑みを浮かべながら彼へと飛び掛かってきた。


「兄上~っ! 兄上兄上、兄上~~っ!!」


「ぬおおおおっ!?」


 どた~ん、と飛び掛かってきた人物に押し倒された友頼が畳の上に倒れ込む。

 久々の再会に感激してくれるのは嬉しいが、流石にこれは行き過ぎだと思いながら体を叩いて弟を窘めようとした彼は、そこで何か柔らかいものを掴んだ感触に身を硬直させた。


「うん? んん……?」


 なんだかとっても柔らかいそれが若牛丸の尻であることに気付いたのは、暫く揉み続けた後のことだった。

 むにゅむにゅとした柔らかさを誇るそれが想像以上に大きいことに戸惑う友頼であったが、同時にもう一か所柔らかい何かが押し当てられていることにも気付く。


「兄上! 兄上兄上兄上!! ようやく、お会いできました……!!」


「こ、こ、これは……っ!?」


 自分を呼びながら頬擦りをする若牛丸の声を聞き、男のものとは思えないほどに柔らかい尻を揉んだ友頼は、驚愕しながら弟を引き剥がす。

 そうすれば、腰の上に座った状態でこちらを見つめる若牛丸の胸に、それはもう見事な二つのお山が盛り上がっている様が目に映ってしまったではないか。


「お、お前、若牛丸、か……?」


「はいっ! お会いしとうございました、兄上……!!」


「お、おおぅ……っ!?」


 目の前の人物へとそう問いかければ、若牛丸は目に涙を浮かべながら頷いた後で再び自分に抱き着いてきた。

 胸盛丹を飲んだ女性よりも巨大な胸が押し当てられる感覚と、尻を掴んだままの手から伝わってくる柔らかな感触に呻く友頼へと、屈託のない笑みを浮かべた若牛丸が言う。


「兄上が父上の仇を討つべく挙兵したと聞き、この若牛丸、大急ぎで馳せ参じました! これからは兄上にこの命を預け、身も心も捧げさせていただきます!」


「お、おお……! そ、そうか、嬉しい、ぞ……!」


(デカ過ぎんだろ……? 体はすっぽり俺の腕の中に納まるのに、なんだよこの乳と尻ぃ!? これじゃあ若牛丸じゃなくって、だろうが!!)


 簡単に抱き締められる上に、ひょいと楽々持ち上げられるくらいに小さく軽い体をしている若牛丸だが、上半身と下半身にそれぞれ一つずつずっしりした重みを持つ部位がある。

 強く抱き着いてくる若牛丸の体を支える友頼は、否応なしにその部位の柔らかさを押し付けられていた。


「ああ、懐かしいです……! 子供の頃、兄上に抱きかかえていただいた時のことを思い出します……!」


(え? 待って? 弟と十数年ぶりに再会したら実は女の子で、おっぱいもお尻も大き過ぎるくらいデカい上にこんなに懐いてくれてる義妹が唐突にできるだなんてこれなんてエロゲ?)


 ぎゅうぅっ、と自分を強く抱き締めながら思い出を語る若牛丸の声を聞きながら、完全に錯乱した状態で思いを巡らせる友頼。

 側近はそんな彼に気を遣ったのか、こっそりと部屋を出ていった。


 属性盛り過ぎな義妹と二人部屋に残された友頼であったが、そこである可能性に思い至ると彼女の目を見つめながら質問を投げかける。


「わ、若牛丸! お前、胸盛丹を飲んだのか!?」


(うわ、めっちゃかわいい。本当に俺の妹か? あ、血は繋がってないんだったわ)


 真剣なことを言う口と頭の中の思考は完全に乖離していたが、これはかなり大事な質問だ。

 この見事過ぎる胸が平家が開発した秘薬の産物だとしたら、若牛丸を部下たちに引き合わせるわけにはいかないと考える友頼であったが、当の本人はきょとんとした様子でこう答える。


「は……? 胸盛丹とは何でしょう? 何分、十数年間ずっと山の中に籠りきりだったもので、そういったことに疎くて……」


「あっ、そ、そうなのか?」


「申し訳ありませぬ。よろしければ、無知な若牛めに兄上自ら色々とご教授いただけると嬉しいです」


 お前は無知というよりだろうがという言葉を、ギリギリのところで飲み込むことができた。

 そもそも平家の連中に見つかっていたら自分に会いに来ることなんてできないだろうと考えた友頼が彼女の答えに納得したところで、ぽすっと胸に顔を埋めた若牛丸が言う。


「兄上……! この十数年で父上も他の兄弟も死に、家族を失った自分は一人で孤独に生きていくのだろうと思っておりました。だから、こうして兄上と再会できて、若牛はとても嬉しいです……!」


「若牛丸……!」


 弟……ではなく義妹の涙をあふれさせながらの言葉を聞いた友頼が小さく息を飲む。

 彼女もまた、自分と同じく家族を失った悲しみを抱えながら十年以上もの月日を過ごしていたのだと、同じ想いを抱えながら生き続けてきた友頼には、若牛丸の苦悩が痛いほどに理解できた。


「若牛丸……」


「あっ……! 兄上……!!」


 そんな彼女を安心させるように、友頼も若牛丸を強く抱き締め返す。

 性別も血の繋がりも関係ない。自分たちは心で繋がった本物の家族だと、義妹に自身の想いを言葉に出さずに伝えた友頼は、言葉でも大事なことを伝える。


「……私も、同じ気持ちだ。お前が生きていてくれたこと、嬉しく思う。私たちはこの世にたった二人の家族だ。これからは平家討伐を果たすため、力を合わせよう」


「兄上……!!」


 友頼の言葉に感動した若牛丸が更に腕に力を込めて彼に抱き着く。

 思ったより力が強いなだとか、かなり強く胸が押し当てられているよなとか、抱きかかえるためとはいえお尻を掴み続けちゃって申し訳ないなと考える友頼の耳元で、若牛丸が囁く。


「ありがとうございます、兄上……! これからは家族で力を合わせ、悲願を果たしましょうぞ!」


「ああ! 頼りにしているぞ、若牛!」


「はいっ! 、頑張りますね!」


「ん? ボク……?」


 不意に若牛丸が発した一人称に違和感を覚えた友頼がそこにツッコミを入れる。

 そうすれば、はにかんだ彼女が恥ずかしそうにしながら弁明を述べ始めた。


「あっ! も、申し訳ありません! 何分、山暮らしが長いせいでまだ正しい言葉遣いに慣れていなくって、つい癖で自分のことをボクと……兄上の傍だと気が抜けちゃうから、それもあるのかもしれません」


「お、おお、そうなのか……ま、まあ、いいんじゃない? うん、いいと思うよ?」


「ありがとうございます……! 兄上がそう仰ってくれるなら、二人きりの時は気を緩めちゃおうかな? 周りに誰もいない時は……お兄ちゃん、って呼んでもいい?」


「う、うん、いいよぉ……?」


「本当!? わ~い! お兄ちゃん、大好きっ!!」


 ぽふっ、と顔を胸に埋めながら、胸を思いきり押し当てながら、強く強く抱き着く若牛丸。

 そんな彼女の一挙手一投足に振り回される友頼は、心の中で盛大に叫ぶ。


(もう止めてぇええっ! これ以上、属性盛らないでぇえっ!! 好きになる! 妹なのに好きになっちゃう!!)


 実は女の子だった爆乳巨尻で元気いっぱいな無知でむちむちなボクっ娘犬系お兄ちゃん大好きな義妹とか、どう考えても属性を盛り過ぎている。

 こんなのが突然押しかけてきた上に家族になるだなんて、逆に拷問でしかない。


「お兄ちゃん、ボク、頑張るね……♡ 二人で平家を倒して、平和な国を作ろうね……♡」


 理性がもたない。色々とバグる。助けてほしい。

 最高にかわいくて愛らしい妹だからこそ、特にそう思う。


 暴走しそうになる自分自身を必死に律する友頼は、今日という日を境に自分の人生が激変する確信を抱きながら、自分にじゃれつく妹に接し続けるのであった。


 なお、この日、兄恋しさに若牛丸が六里もの距離をその大きな胸を揺らしながら疾走する様を目にした人々が彼女のことを【六里巨乳】と名付け、それが変化してロリ巨乳という単語が生まれたことはあまりにも有名な話である。

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