終章 続演

 激闘の末、全てを終わらせたエラ。あの戦いの後、エラはすぐに気を失い、気づいた時にはかつてガラスの剣をくれた魔女のおばあさんの家にいました。

 数日の間、エラは立つこともできませんでしたが、おばあさんの献身的な治療のおかげで徐々に回復していきました。

「エラ、傷は痛みますか?」

「もうだいぶ良くなったわ、おばあさん。こっちはまだ全然慣れないけどね」

 三分の一が消し飛んでしまった右腕を振るエラ。片方しか無い瞳にもかつての明るさは宿っていません。

「本当に傷を魔法で治さなくてよいのですか?」

「いいの、これは彼からの贈り物だから。私が大切にしないといけないの」

 片腕、片目、家、家族……失った物はあまりに多く、手に入れた物はほとんど無くても、全く無かったわけじゃない。

 エラはそう思っていました。

「そう……大変でしたね」

「まるで他人事ね。私とあの魔法使いを戦うように仕向けたのはおばあさんなのに」

 魔女はその言葉を聞いて固まってしまいました。

「最初に出会った時、おばあさんが怪我をしていたのはあの魔法使いにやられたからでしょう? だからあの家に逃げ込んで、私を王子様と……肉体を乗っ取った魔法使いと戦うように仕向けた。違うかしら?」

 魔女は黙ったまま何も言いません。

「別におばあさんを責めているわけじゃないの。確かにお母様もお姉様たちも死んでしまったけど、恨んではいないわ」

「……一体、いつから気づいていたのですか?」

「どうでもいいじゃない。そんなこと」

 エラは魔女を非難する気も批判する気もありませんでした。全ては終わったことであると分かっていたのです。

「でも一つ聞きたいわ。このガラスの剣を受け取ったのが私だった理由だけが、全く分からないの」

「たいしたことではありませんよ。ただ、友が遺したものにすがっただけです」

「……そう、だったのね」

 砕け散ったガラスの剣を抱えながら、エラは喉が焼けたような乾いた笑いを浮かべました。

「私はもう踊り疲れたわ。だからこれはもう必要ないわね」

「そう、じゃあ捨てておきましょうか」

「それももったいないわね……せっかく綺麗なガラスなんだし、何か別の物に作り変えて誰かに譲りましょう」

「別の物?」

「そうね……靴とかいいんじゃない?」

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シンデレラ / 遠吠 負ヶ犬 作 名古屋市立大学文藝部 @NCUbungei

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