本格的なファンタジー小説

蟹場たらば

本格的なお昼ご飯の選び方

○本格度30%



「昼飯はどうする?」


 魔物退治の仕事の前に、街で腹ごしらえをしていこう。そう考えて、リアムは率いている仲間たちにそんな質問をしたのだった。


「俺はハンバーグがいい」


「サンドイッチにしましょう」


 ルーカスとオリヴィアで、答えが真っ二つに分かれた。


 だから、言い争いになった。


「ハンバーグの方がいいだろ。肉喰わないと力が出ねえからな」


「サンドイッチの方が栄養のバランスがいいですよ」


 二人とも自分が折れるつもりはないようだ。「ハンバーグだって」「サンドイッチです」と主張を譲ろうとしない。


 ルーカスは、ドワーフと呼ばれる種族だった。成人した男でもかなり小柄な一方、女児でも筋肉質でがっしりした体つきをしているという特徴がある。そのため、多くのドワーフは採掘のような力仕事が得意で、その繋がりで鍛冶にも――物の作製にも精通していた。


 一方、オリヴィアはエルフだった。彼女たちの間では、「我々の耳が長いのは木々の声(葉擦れの音)をよく聞くためだ」と言い伝えられているのだという。そんな伝承の存在が示す通り、エルフは植物を始めとしたを好み、ほとんどが人里離れた森の奥深くで暮らしている。


 つまり、二人は個人どころか、種族単位で反目し合っていたのである。


「間を取って、ハンバーガーでいいな」


 もう何度も見たようなやりとりだが、人間のリアムは呆れ顔をするしかなかった。


「お前らちょっとは仲良くしろよ。呉越同舟してるとはいえひどいぞ」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



○本格度70%



「昼飯はどうする?」


 魔物退治の仕事の前に、街で腹ごしらえをしていこう。そう考えて、リアンは率いている仲間たちにそんな質問をしたのだった。


「俺はハンリックステーキがいい」


「ンドルドンにしましょう」


 ルーモアとオリリエンで、答えが真っ二つに分かれた。


 だから、言い争いになった。


「ハンリックステーキの方がいいだろ。肉喰わないと力が出ねえからな」


「ンドルドンの方が栄養のバランスがいいですよ」


 ハンリックステーキとは、細かく刻んだ肉をこね、楕円形に成形して焼いたもの。対して、ンドルドンとは、薄切りにしたパンで卵や野菜などを挟んだものである。要するに、ルーモアとオリリエンは全然別の料理を挙げたことになる。


 二人とも自分が折れるつもりはないようだ。「ハンリックステーキだって」「ンドルドンです」と主張を譲ろうとしない。


 ルーモアは、手人アルデルと呼ばれる種族だった。彼らは二本の主腕と二本の副腕という計四つの腕を持ち、それぞれを独立して自由に動かすことができる。そのため、手人アルデルはとても器用なことで知られ、木工や彫金、裁縫などによる細工物――物が主要産業になっているほどだった。


 一方、オリリエンは樹人ネーアネーアだった。彼女たちはつるのような緑色の太い髪と、幹のような茶色の固い肌をしており、太陽の光を養分に変えることができるという、本物の樹木に似た体質をしている。このことから、樹人ネーアネーアの多くは、特に植物に対して強い親近感を抱いているのだった。


 つまり、二人は個人どころか、種族単位で反目し合っていたのである。


「間を取って、ンドルドン・ハンリックーンでいいな」


 ハンリックステーキを挟んだンドルドンなら、ルーモアもオリリエンも文句はないだろう。


 もう何度も見たようなやりとりだが、普人のリアンは呆れ顔をするしかなかった。


「お前らちょっとは仲良くしろよ。『傘一本に異教徒二人』とはいえひどいぞ」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



○本格度90%



「モニカ・カイ・クチリナチ・トンシ・リラナミチト?」※1


 魔物退治の仕事の前に、街で腹ごしらえをしていこう。そう考えて、リアンは率いている仲間たちにそんな質問をしたのだった。


「モニイト・クチリナチ・ハンリック」※2


「ミチニ・イクシラカ・ンドルドン」※3


 ルーモアとオリリエンで、答えが真っ二つに分かれた。


 だから、言い争いになった。


「ハンリック・ラミ・セチスイモ。モニイト・イニ・ラリイ・ヒラニモ、イリーニ・モニイト・トンシ・リニク」※4


「ンドルドン・ラミ・モナノトイリリ・チトチセチニ」※5


 二人とも自分が折れるつもりはないようだ。「モニイト・トチミラニ・ハンリック」※6「ミチニ・トチミラニ・ンドルドン」※7と主張を譲ろうとしない。



※1

モニカ……なに。どんな。どれくらい。いくら。

カイ……あなた。あなたたち、皆さん。

クチリナチ……~したい。~したいと思う。

トンシ……~を食べる。~を消費する。~を可愛がる。

リラナミチト……昼食。(俗語で)重要な人物・事柄。


※2

モニイト……男性一人称。僕、俺。

クチリナチ……~したい。~したいと思う。

ハンリック……細かく刻んだ肉をこね、楕円形に成形して焼いたもの。ハンバーグステーキ。


※3

ミチニ……女性一人称。私。

イクシラカ……~を提案する。~を支持する。

ンドルドン……薄切りにしたパンで卵や野菜などを挟んだもの。サンドイッチ。(俗語で)板挟み。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



○本格度100%



「□□□□□□ □□□ □□□□□□□□□□ □□□□□□ □□□□□□□□□□□ □」※1


 魔物退治の仕事の前に、街で腹ごしらえをしていこう。そう考えて、□□□※2は率いている仲間たちにそんな質問をしたのだった。


「□□□□□□ □□□□□□□□□□ □□□□□□□□」※3


「□□□□□□□ □□□□□□□□ □□□□□□□」※4


 □□□□□□□※5と□□□□□□□□※6で、答えが真っ二つに分かれた。



※1

□□□□□□……なに。どんな。どれくらい。いくら。

□□□……あなた。あなたたち、皆さん。

□□□□□□□□□□……~したい。~したいと思う。

□□□□□□……~を食べる。~を消費する。~を可愛がる。

□□□□□□□□□□□……昼食。(俗語で)重要な人物・事柄。

□……疑問符。?。


※2

□□□……人名。□□□□□□の短縮形。古代□□の神話で、神々からいくつもの難題を課された人物に由来する。(俗語で)苦労人。



※ガルヴィン=グロングロング語文字を使用しているため、お使いの端末では文章の一部が上手く表示されない場合があります。




(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本格的なファンタジー小説 蟹場たらば @kanibataraba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ