全編を通し、教養に溢れた物語でした。
主人公である父親は芸術家の娘の家を訪ねます。完璧主義で名作だけを描きたいと考える娘は、新作について酷く悩んでいるのがわかります。
そこで、父親は必死に娘を説得するのです。
岡本綺堂の『修善寺物語』に出てくる夜叉王の面づくりの話をベースとしつつ、松尾芭蕉や正岡子規、手塚治虫たちも数多くの作品を残してはいるが凡作も多いのだとし、娘の気持ちを少しでもやわらげてやろうと必死に語りを続けます。
そこで出てくる逸話などは普段触れることのない内容のものが多く、「へえ」と思わず感嘆させられるような教養に溢れていました。
そうした説得の先で、父親は何を目にするか。
芸術家の業と、それを心配する父親の物語。とても読み応えのある一作でした。
(ちなみに余談ですが、手塚治虫の名作と言えば、私は『MW(ムウ)』と『きりひと讃歌』を推したいです。作中議論を見て、「加わりたい!」と強い衝動に駆られました)