第80話 太陽が沈まない国カスターニャ
大司祭が見届ける以外は飾り気のない結婚式が粛々と執り行われる。
イバン、アルフォンス、カルメンといった友人たちやアレクシスの両親が穏やかな笑顔を浮かべながら見守る。
式はいよいよ大詰め。誓いの証明が始まる。
純白のウェディングスーツを身に纏ったカルロスと同じく純白のウェディングドレスに身に纏ったアレクシスが向かい合う。
「あげるよ」
囁きながらベールアップ。
するとアレクシスはぎゅっと目を閉じていた。
「準備ばっちりですわ。これで喀血の心配はございませんわ」
せっかくの結婚式を台無しにしたくない。彼女はその一心だった。
「ふふっ、本当に君は飽きさせないね。君と歩む人生が今から楽しみでしょうがないよ」
カルロスは屈んで顔を近づける。
二人は多くの人に見守られながら愛を証明した。
アレクシスは今にも風船のように浮かんでしまいそうな足取りで赤い絨毯の上を歩く。
「夢心地ですわぁ……」
カルロスは転んでしまわないように腕を組んでエスコートする。
「これからも多くの夢を見てもらえるように頑張るよ」
出口の扉にはイバンが腕を組んで待ち構えていた。
「よぉ、カルロス。ちょっと困ったことが起きてだな」
「何があったんだい?」
「手違いで馬車を待たせる位置を間違えちまった。ざっと二千歩ほど歩いてもらうぜ」
「二千歩? それなら呼び寄せられる距離じゃないか」
「まあいいじゃねえの。たまにはゆっくりと二人で城下を歩くのもさ」
イバンはウィンクしながら扉を開く。
カルロスとアレクシスは開かれた扉の先を見て、ウィンクの意味を知る。
教会の前は広場になっていて馬車がすれ違える幅の道が伸びている。
普段は教会の周辺ということもあり静寂に満ち、閑散としている。
扉を開けた瞬間にチャペルが鳴り聖歌隊が一斉に讃美歌を歌い始めた。
それすらもかき消してしまいそうな拍手と歓声が巻き起こる。
「カルロス様、アレクシス様!! 結婚おめでとうございます!」
「末永くお幸せにー!!」
「オメデトー!!」
国民が広場に押し寄せていた。こぞって二人を祝福する。
あまりの人の多さに混乱が起きそうだったが、
「我らが誉れ高き親衛隊塔部隊! カルロス様、アレクシス様の晴れ舞台である! 我らの盾で花を添えようぞ!」
その鍛え抜かれた肉体でもって人と道の仕切りとなっていた。
熱狂する人混みの中、花を配る者もいた。
「アレクシス様が愛した花ですよー! これをもってアレクシス様を祝福しましょうー! どうぞどうぞ、持ってて! 一人一本! お金はいらないよー!」
親衛隊に混じって道に流れ込みそうな人間を背中で押し込む騎士見習いもいた。
「うわあ、ほんとかよ。あの頭のおかしそうな人、本当に妃になるのかよ」
教会から離れた場所では屋台を出す商魂逞しい者も。
「さあさあ! 食べてってー! ロデオ新名物豚骨ラーメン! アレクシス様のお墨付きだよー! チャーシューもおいしくなって新登場だよ! あ、一杯注文ですか!? ベン君、豚骨ラーメン一丁!」
カルロスは天を仰いだ後に仕掛人を見た。
「やってくれたな、イバン」
「礼はいらねえぜ」
「……ありがとう、わが友。最高の日になりそうだ」
そして隣の愛する人を見る。
「わあ! わあ! わあ! 王都中の人たちが集まっているみたいですわ!」
目を輝かせながらも涙を浮かべていた。
「みんな、僕たちのために集まってくれたんだね」
「私たちのためですか。まあ、なんとお返しすればよろしいのでしょう。私、嬉しさで胸がいっぱいですわ。返しようがございませんわ」
「今はとりあえず、幸せだってことを皆に伝えればいいと思うよ」
「ど、どうすれば? 私、このような場は慣れておりませんので」
「それじゃあ……アレがいいんじゃないかな?」
アレと聞いてアレクシスはふふふと微笑む。
「よろしいのですか? 流行ってしまいますわよ」
「あはは、それはどうだろうね」
「ええ、でも、そうですわね。アレがうってつけなのでしょう」
アレクシスは腰に手を当て、口に手を添える。
「おーっほっほっほ!」
お決まりの高笑いを披露した。
その高笑いは決して流行らなかったがしかし、皆を笑顔をもたらした。
平等に、分け隔てなく、光を届ける太陽のように。
イケメンに婚約破棄されましたが面食いなのでぜってえ復縁してみせますわ! 田村ケンタッキー @tamura_KY
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