嘘、真実、そして半径5メートルの視野。

「盗作」の告白という、嘘に対する真実の開示から始まる物語。
前半では「我那覇」はおおよそ真実しか言っていないにもかかわらず、その印象は酷く曖昧であり、我々読者は「アオシマくん」視点に立って「我那覇」に対する疑念を深めていく事となります。
至る所に疑念が散りばめられていますが、テンポよく解決していくので読んでいて気持ちが良い反面、新たな真実がさらなる疑念を生み、どんどん物語に引きずりこまれていきます。

前半はミステリ色が濃いですが、読み進めていくうちに言葉、そして物語の持つ力に焦点が向いてきます。
物語の持つ力を信じ切れず、行動に向かったY先生。
物語の持つ力と、人間の持つ善性を信じて、Y先生の物語を綴った我那覇。
その物語の力で破滅への道を辿った、真実の世界。
面白さと同時に深く考えさせられるテーマであり、最後まで辿り着いた人の心に爪痕を残すでしょう。

読者の皆様の半径5メートルの視野が、どうか広がりますように。

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