エピローグ
大阪桐正に2対3で勝った瞬間の、歓声による地鳴りをきっと私は忘れないと思う。甲子園優勝を果たし、湘東学園は史上6校目の春夏連覇校となった。間違いなく、歴史に残る春夏連覇だ。ついでに私の最後の夏の甲子園成績、10打数10安打10本塁打は、アンタッチャブルレコードとかそういう次元じゃないね。もはや野球の理論値みたいなものだよ。
各社の新聞記事は一面で私達の活躍を載せており、中には2年生世代に着目している記事や1年生の番匠さんに注目している所もある。来年以降も、湘東学園に人は集まってくれるかな。
そして私はメジャー挑戦を発表したけど、これに関しては賛否両論だった。ドラフト指名を拒否して海外の球団と契約すると、退団後も3年間は日本のプロ野球でプレーできないというペナルティーもある。でも逆に言えば、向こうでずっと野球をやる分には何ら問題のないペナルティでもある。今まで私の交渉に付き合ってくれた日本のプロ野球球団には申し訳ないけど、1位指名は他の人を選択した方が良いよと伝えておいた。
メジャー挑戦発表のせいで批判的な人も出て来たし、マスコミの数が凄まじいことになったため、表彰式が終わった後、私は1人先に神奈川へと新幹線で帰る。今大会でも活躍した真凡ちゃんや智賀ちゃん、優紀ちゃんも注目を集めているし、私が消えても取材先は困らないんじゃないかな。
一足先に寮へ帰った後は、湘東学園のグラウンドに行った。甲子園へ向かう前に3年間お世話になったグラウンドへ挨拶をしたのが半月前だから、まだそんなに時間は経ってないんだけど、なんだかグラウンドの土が懐かしく感じる。
そのグラウンドの中央に、1人の少女がいたから声をかけた。
「あれ?もしかして見学者かな?」
「え?あ、はい!え!?」
向こうは私のことを知っているのか、私を見た瞬間に目が点になって呆然としているけど、体格的に中学3年生かな?来年の湘東学園に、入ってくれそうな子だね。
「んー、見学者ならキャッチボールでもする?グローブは持ってるかな?」
「え、いえ、持ってきてないです……」
「じゃあ私の予備のグローブをあげるよ。結局3年間使ったことはないけど、手入れはしているから大丈夫かな」
せっかく見学に来たのに、今日はグラウンドに誰もいない日というのはこの子にとって不運だった。2軍の子も3軍の子も、全員甲子園へ応援に行ってるから帰って来るのは明日だよ。……いや、この子は練習の風景とかを見に来たわけじゃないのかな。普通に考えれば、今日はまだ誰もいないはずの日だからね。
「どう?サイズ合う?」
「はい、大丈夫です」
「そういえば、名前を聞いてなかったね。何て言うの?」
「藁谷(わらや) 真由美(まゆみ)です」
「藁谷さんね。私は実松奏音って言うんだけど、知ってる?」
「はい、知ってます」
お互いに自己紹介をして、私のことを知っているかと聞いてみると苦笑して知ってると答えてくれる藁谷さん。まだあまりスポーツをやり込んではいない体格だし、今年入って来た1年生達と比べても一回り小さいかな。
キャッチボールを始めると、そこそこコントロールは良くて肩も良いかなという印象。ポジションを聞かなかったけど、もしかしなくてもピッチャーかな?
彼女は私が甲子園で投げる姿を見て、ここへの進学を決意したみたい。それですぐに見学に来たけど、誰もいなかった模様。伯母が勝手にグラウンドの立ち入りを許可したみたいだけど、私が来なかったら一通り設備だけ見て帰るつもりだったのかな。
「野球は中学から始めたの?」
「はい。中学2年生の時に部活へ入って本格的に始めました。全然強いところじゃないですが……」
「部活ってことは軟式かな?硬式のボールはどう?」
「やっぱり硬くて重いです。今もちょっと怖いですし」
あまりスポーツをするような服装じゃなかった藁谷さんと、少しの時間キャッチボールをして、湘東学園に来るのかと質問したら絶対に来ますとの返答が。随分と心強い返事で、絶対に入りたいという意思が伝わって来る。
最後に、サインを強請られたので彼女が使った予備のグローブにサインを書いて渡す。最初に「あげる」と言ったのに、随分と拒絶されたから渡すのに苦労した。こんな貴重な物受け取れませんって、そんな聖遺物じゃあるまいし、気軽に使って欲しいよ。
一応、そこそこ有名なメーカーのちゃんと値段のするグローブだし。……ああ、だから拒否されたのかな。グローブを貰った藁谷さんは、そのグローブを着けてブンブンと手を振って去って行く。可愛い。
そんな彼女に向かって、最後に白球を投げる。ちょっと距離があったけど、真っ直ぐ彼女に向かって飛んでいく球を、彼女はしっかりとキャッチした。
読者の皆様、ここまでの読了お疲れさまでした。これにて「TS転生したから野球で無双する」完結です。たくさんのフォローや評価、感想をありがとうございました。
最後に評価を付けて下さると非常に嬉しいです。また次回作や他の場で会えることを楽しみにしています。これまでありがとうございました。
TS転生したから野球で無双する インスタント脳味噌汁 @InstantWriter
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます