笑うこけし

ふさふさしっぽ

本文

「年末だからさ、屋根裏の整とんしてたら、古いこけしが出てきたんだよ」


 会社の同僚が休憩中にそんなことを言った。


「こけしって、木で作った人形に顔が書いてあるあれか。最近女性に人気があるとかないとか」


 同僚が目で促すので、仕方なく僕はそう言いながら同僚の横に腰かけた。


「そう、そのこけし。古い新聞にくるんであった。何だろうと思って開いたらこけしだったんだよ」


「へえ」


「そのこけしが、突然笑ったんだ。『ひゃひゃひゃひゃひゃ』って。信じられるか」


「こけしって顔の絵が描いてあるんだよな。どうやって笑うんだ」


「だけど笑ったんだよ」


「首を回すとキイキイ鳴るこけしもあるみたいだけど」


「いや、首の回らないタイプだし、俺はそのとき酔ってもいなかった。確かに、こけしが笑ったんだ。俺は仰天してこけしを放り投げて、屋根裏から逃げたよ。これからどうしよう。妻と子供にはまだ何も言ってない。怖がるからな」


 同僚がアドバイスを求めるようにこちらに顔を向けた。僕は顔を伏せて、当たり障りのないことを言った。


「どこかのお寺で供養してもらったらどうだ」


 奥さんと子供は、もう怖がっているんじゃないだろうか。会社の連中も不気味に思っている……。


「やっぱりそうだよな。もう一度屋根裏に上がるの嫌だけど、仕方ないな。早い方がいいから、明日にでもそうするよ」


 そう言いながら同僚は立ち上がった。僕は意を決して顔を上げる。同僚の顔は数日前からだんだん変化し、今やすっかりこけしの顔になっていた。


「アドバイス、サンキュー。ひゃひゃひゃひゃひゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

笑うこけし ふさふさしっぽ @69903

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説