第15話 水色の逃避行ー後ー

「……烏山か」

「きょ、鏡堂くん」

 焦りと戸惑いを隠せずに留夏は何とか言葉を発した。

 外を出歩いても、ミズカが自分になっているときは、本当の留夏は誰にも見えていなかった。 

 誰1人とも目が合わず、誰も留夏のことを気にかけていなかったというのに。

 偶然会った玲央は特に不審がることもなく、留夏といつも通りに少し話をして、すぐに去って行った。


「中学3年のそのとき、あたし、鏡堂くんには霊感とかそういうのあるんだあって、勝手に確信したんだ。前から遅刻とか欠席とか多くてどこか謎めいてたし、誰もいないのに誰かと話しているような場面も、その後見かけたことがあって。何だか納得しちゃったの」

「……そうか。そのときからすでに入れ替わりは始まっていて、それなのに烏山はわざわざ今日、わざと俺の前に姿を見せたと。入れ替わりを終わりにでもしたいのか」

 留夏は過去の出来事を風子たちに話し、玲央の問いに覚悟は決まっているという表情で頷く。

「…うん。ミズカがね、最近少し、おかしいっていうか。苦しそうな時があって。それってきっと、あたしのせいなのかなって。その、能力の使い過ぎとかでさ。だから鏡堂くんに、助けてほしくて」

「ボクがおかしい?ボクはてっきり、留夏がもう、入れ替わりなんて必要としていないから終わりにしたいのかと、思っていたんだけど……。ボクが苦しそうって」

「どういうこと」とでも言いたげな様子だったが、ミズカはぐっと言葉を飲み込んだ。

 留夏とミズカの間には少し思い違いがあったようだが、玲央とミズカの表情が少し強張ったことに風子は気が付いた。

 このときの風子には、何が何だかわからなかったが。

「……烏山。それから、ミズカ、といったか。これは大切な話だ」

 玲央はそう前置きを置いて、風子にも視線を送り、一度ゆっくりと目を閉じ、口を開く。

「それは、もうすぐミズカ、お前が自我を失って悪霊になる前兆だ。正確には、お前は霊とは少し違う存在だと予想されるが。苦しんでいる自覚は本人にはないものだ。解決するためには、俺たちが成仏させるしかない」

 ざあっと神在神社に小風が吹き、木々もざわめき葉が舞い落ちる。

「そして、風子。これは風子の初仕事にふさわしい。霊媒師になるかどうかはこれから決めてくれればいいが。霊媒師の仕事の重み、そして意味が、よくわかると思う。どうか」

 玲央は真っすぐに風子を見つめた。

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不幸少女は世界を救う 冬田ケイ @Fuyu_fuyu

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