また別の話


 ねえ、マヒナレア。おれ別にクアイヴァーミンのこと好きじゃないよ。あいつは友達だから。想い人とかじゃなくてさ。嫉妬した? 可愛いやつだなあ。おいで、抱きしめてあげよう。

 何? おれとあいつの話を聞きたい? まだ疑ってるの? いいや。うん。してあげよう。こら、くすぐったいからそこ触らない。

 幼なじみ、って言うほど昔からじゃないんだけどさ、でもそれなりに昔からあいつとは大事な友達で。あの頃、あの場所には、読書──特に詩が好きなような夢見がちな子供はおれたちしかいなかったから。時間が許すかぎり、ずっと一緒にいた。おれが、とにかく偉くて凄い詩人になろうって思ったのも、あいつのおかげなんだ。あの時おれが、あいつと一緒に読みたいと願った詩が、これからこの国にたくさん生まれたらいいなって。自分ひとりでそういう詩を全部書けなくても、せめて、その呼び水になれるような、偉い詩人になりたいって思ったから。

 だからさ、おれの剥製の話。あいつがその時になってもおれに愛想尽かしてなくて、暴れてでも嫌がるようだったら、止めてやってくれ。あいつ、昔っから気が弱くてさ。そのくせ口下手で。それに──

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煙を立てろ愛神の花 藤田桜 @24ta-sakura

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