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ひしゃげた、マヒナレアの端整な顔が。そのまま足を踏み込んで、僕はやつの頬がゴムみたいに歪むのを視界の端に見た。ずっと気に入らなかった薄ら笑いが驚愕に崩れたおかげか、胸がすくような気がした。けれど、そんなことでカーマフアレレが帰ってきたりはしない。
弔いのために
まるで博物館のスタッフのように佇んでいる、つい少し前までカーマフアレレの弟子だった男に、僕は尋ねた。「これは、何なの」胸が早鐘を打つ。嘘だ。嘘だ。君がこんな死に方をしていいわけがない。
「何って」マヒナレアは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。こいつが僕のことを、カーマフアレレの昔なじみってだけで敵のように思っているのは知っている。同時に、こいつがまるで初恋のように淡く強くカーマフアレレを慕っていたことも。だからこそ、嘘だと思った。こいつがそんな馬鹿なことを言うなど。
「剥製ですよ。先生の」
気付いたときには、殴り掛かっていた。生まれてこの方、ろくな喧嘩なんてしてこなかった自分が。まるで飛び掛かる猿のように。
よろめいたのを突き飛ばし、それでも起き上がろうとするマヒナレアを何度も踏みつけ、僕はカーマフアレレの骸に駆け寄った。蓋は大岩のように重かった。布を掻き分けて、その肌を確かめると、驚くほどに冷たい。縋りついて泣き叫んでも、何度名前を呼んでも、カーマフアレレは目を覚まさなかった。
「先生は、こうして死ぬことを望んだんです」
背後からマヒナレアの声がする。「メレヴァーティーの依り代として。この国の詩人たちの
「君はカーマフアレレのことが好きだったんじゃないのか」
「ええ。愛しています。深く愛して、忠誠を誓って──」
君が愛していたのはカーマフアレレじゃなくて「現代の
それから僕は権限を奪うようにして、カーマフアレレの葬儀を取り仕切った。
カイヴィ河の畔の火葬場で煙が上る。彼の魂が何者にも囚われることなく流れて、またここへと帰ってきてくれるように願いながら。できればそのときは、僕にも顔を見せてやってほしい。
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