私が好きな勇者
私の人生は後悔ばかりだ。
村を守る為に生贄に志願したこと。
呪いを受けて魔女になったこと。
皆から怖がられる人生を選んだこと。
悪魔の誘いに乗って故郷を襲ったこも。
そして、最後まで好きと言えなかったこと。
我ながら本当に面倒な女だと思う。魔女じゃ勇者の恋人に相応しくないとか。年齢の差とか。周囲の目とか。
彼が気にしないと知っているのに、気持ちを伝えるのが怖くて言い訳を並べている。
拒絶される筈ないと知りながら、この思いに従うことを恐れている。
純粋な彼に並ぶには私は間違いを犯しすぎた。
悪魔に対しての恨みも、
本当に、私は身勝手だ。自己中心的で、素直じゃなくて、
なのに、それなのに、こんな私を好きだと言ってくれた。
10年以上も愛してると言い続けた。こんなの意識しないなんて無理に決まってる。
自分の中で枯れたと思った感情が蘇る。切なくて、苦しくて、
でも私は素直になれない。
彼の想いを受け止めれない。
好きだから、私も大好きだから。好きな人が私のせいで傷つくのを見たくない。
呪いという汚い物をもった私は皆から酷い目を向けられる。それに国を一度滅ぼしかけた大罪人でもある。
こんな私が彼の隣に並べば、きっとその火の粉が彼にも降りかかる。
私の大好きな人が私のせいで傷つくなんて耐えられない。
だからお願い、もう愛を伝えてこないで。これ以上は決心が鈍ってしまうから。
だからお願い、私を求めないで。この思いが零れそうになるから。
だからお願い、私から離れて。その背中に
だから。お願い。―――私を助けて。
「魔女さん。旅はまだ終わってないですよ」
「…………」
「僕はまだ魔女さんのこと諦めてないです」
「…………」
「魔女さんもまだ、僕の告白を受け入れてないじゃないですか」
「…………」
「どちらかが折れるまで続くんですよね?この旅は」
「…………」
「次はどの町に行きます?村が良いですか?隣の国まで行くのも良いですね」
一晩中泣いた少年の顔は勇者の顔に戻っていた。
大好きな彼女に弱い自分を隠し、強くあろうとする勇者の顔だ。
でもその声はまだ枯れている。涙はまだ止まっていない。
けれども顔は強い意志を持った勇者のものだ。
「そういえば、今日はまだ言ってませんでしたよね?」
勇者は魔女の虚ろな目を見て言った。
「好きです。魔女さん。僕と付き合ってください」
長い沈黙。
勇者は彼女の口が開くのを待ち続けた。
「なん、で………」
虚ろな目をしたまま魔女が口を開く。
「どう…して。諦めないの、よ」
勇者は一瞬 驚き目を見開くが、すぐに笑顔を作り言った。
「大好きだからです」
即答だった。
「僕がどうしようもない程に魔女さんのことを好きだからです」
「私は、嫌われ者で、あなたは、勇者なのよ」
「えっ、そんなこと気にして僕の告白断ってたんですか⁈」
「そんなことって、私が、どれ程悩んだと思ってるのよ」
魔女の声に力が戻っていき瞳に光が差し始める。
「僕のことそんなに考えてくれてんですね」
「うるさいわよっ、バカ」
「照れ隠しにしか聞こえません」
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカ」
「そうやって照れるとこも大好きです」
「うっさい」
「それで魔女さん。返事は教えてくれないんですか?」
「言わない」
「嫌です。じゃなくて?」
「いーわーなーい!」
「魔女さん、ほんっとに可愛いです」
「うっさいバカ、早く死ね」
「魔女さんが死ぬまで僕は死にません」
「不死にでもなるつもり?」
「それも良いかもですね」
「勝手にしなさい」
「はい。勝手にさせてもらいます」
そう言うと勇者は、まだ足元の
「好きです。魔女さん」
「はいはい。知ってるわよ、ずっと聞いてたんだから」
「え?聞いてたってどこから?」
「最初からよ、あなたが私の手を握って泣き始めたとこから」
「本当に最初からじゃないですか⁉」
「勇者がボロボロ泣いて情けない」
「恥ずかしいんであんま言わないでください」
「忘れてください。じゃなくて?」
「あれも本心なんで、忘れなくても良いです」
「ふーん」
「なんか嬉しそうですね」
「まぁね」
「魔女さんが嬉しいと僕も嬉しいです」
「あっ、そういえば何で私のこと魔女って呼ぶのよ」
「だって魔女さん本当の名前教えてくれないじゃないですか」
「そうだったかしら」
「そうですよ。前はソフィでその前はアリスです。あと、ユフィとかリーシアって名乗ってる時もありました」
「そうだったわね。じゃ、本当の名前 教えるから次からそっちで呼びなさい」
「どうしたんですか急に」
「魔女って呼ばれるのが嫌になったのよ」
「え?それってもしかして関係進展ですか!」
「違うわよ。私の単なる気まぐれよ」
「え~」
「不満?私の名前が知れるのに?」
「魔女さんだけズルいです。僕もやっぱ名前で呼んで欲しいです」
「嫌よ」
「何でですか」
「あなた下の名前しか教えてくれないじゃない」
「それで良いじゃないですか?」
「………まだそういう関係でもないのに、下の名前で呼ぶとか恥ずかしい」
「…………」
「どうしたの?」
「魔女さん」
「はい?」
「可愛すぎます。大好きです」
「あっそう。知ってるわよ。そのくらい」
「魔女さん」
「今度は何?」
「次はどこに行きますか?」
「そうね、隣の国に行くのも楽しそうね」
2人の旅はこの後ももう少しだけ続いた。
二人の気持ちは既に伝わり始めていたが、その気持ちが通じ合うまで旅は終わらない。
しかし、これ以上この話をする必要はないだろう。
この旅はあと少し、ほんの数日で終わるからだ。
ならばこれ以上書く必要はない。
互いの気持ちを認め合って、感情の歯止めが利かなくなった二人の今後を書いても、こちらが胃もたれを起こすだけだけなのだから。
すいません、ここから少し宣伝です。
物語の最終話を壊すような文章をお許し下さい。
この度、この短編「魔女が好きな勇者」の長編版を公開することになりました。
この作品を作ったのがほぼ一年前でして、そこからプロットを作って世界観を作り込んでからの満を辞した公開です。
長編にする過程で魔女さんの容姿など、設定が多少変わっておりますが、キャラクターの魂には一切手を入れておりません。
つまりです。
長編で。何万字も彼と彼女をイチャイチャさせます。
勿論それ以外のとこでも楽しんで頂けるような展開を用意しておりますので宜しければ見に来て下さい。
この短編を書いた時よりも私のスキルが上がっていると思うので読みやすくはなってるかと思います。
長編版のタイトルは
「愛してるを伝えたいからエピローグをもう少し」です。
どうぞ宜しくお願いします。
魔女が好きな勇者 栗眼鏡 @hiro2022
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