第3話 サンタクロース・ラスト ミッション03
ブラックサンタ・ミッションは頓挫してしまったが、その年のクリスマスは、例年通りにホワイトサンタを召喚し、何とかクリアできた。
そして、次のクリスマスまでの間に、我が家には大きな出来事が起こった。
オレの仕事の都合で、関西から関東に引っ越したのである。
新しい住居は、三層式のメゾネットタイプの賃貸マンションだった。
玄関は一層目。
リビングは二層目。
仕事部屋は三層目。
仕事部屋から玄関に行くには、必ずリビング横の階段を使わないといけない。
リビングにはドアがあり、階段を使っても見られることは無いが、三層目で着替えたホワイトサンタが、リビングにいる息子に気付かれず、一層目の玄関に移動するのは、難しい構造となっていた。
クリスマスが迫ってくると、妻に頼んで、息子に探りを入れさせた。
このような会話になったらしい。
「ね、サンタさんって誰なんだろうね」
「ぼくは、たぶん、お父さんだと思う」
(バレてるやん)
「お父さん?
どうして、お父さんだと思うの?」
「サンタさんから、お父さんの匂いがするの」
(……それは、タバコね)※当時は喫煙者でした。
「あとね、サンタさんが帰る時、お父さんのサンダルをはいて帰っていった」
(……けっこう見てるんだ)
「じゃあ、次のクリスマス、本当にお父さんがサンタさんかどうか、お母さんと確かめてみようか? やる?」
「うん! やるやる!」
こうして、息子は、サンタの正体を暴くクリスマス・ミッションをスタートさせた。
自ら先に行動する、アクティブなミッションだと思い込んでいたようだが、残念、お前をミッションに誘導したお母さんは、お父さんから放たれたスパイだったんだ。
ふふふふ、手の平、手の平。
(ちなみに、二年生までは「パパ」「ママ」と呼んでいた息子だが、三年生になった時に「お父さん」「お母さん」へとチェンジしました)
そして、息子が小学三年生となった、クリスマス・イブ当日。
リビングで夕食を終えると、オレは立ち上がった。
「ちょっと上で、仕事の電話をしてくる」
オレの白々しい言葉に、息子は笑いをこらえた表情で、妻に目配せをした。
それに気づかないふりをして、オレは三層目の仕事部屋へと移動した。
妻には事前に、このように伝えてあった。
「オレが上にあがって、1分ほど経ったら、息子と二人で、そっと仕事部屋を覗きにきてくれ。
ドアは、少しだけ開けたままにしておくから。
大丈夫。覗かれたときに目が合わないよう、オレは、ドアに背中を向けた形で、サンタの服に着替えてる。
それを息子と一緒に確認したら、ゆっくりとドアを閉めてから、リビングに戻って、息子と待っていて」
仕事部屋でサンタの上着に腕を通していると、背後に人の気配を感じた。
……来たか?
……息子と覗いているか?
確認したいが振り返ることはできない。
と、カチャっと、ドアの閉まる音が小さく聞こえた。
オレは振り返った。
少し開けていたドアが、完全に閉まっている。
よし! 作戦通り。
オレはサンタの服を脱ぎ捨てた。
ついに正体をバラす時がきたのだ。
手早く準備を終えたオレは、階段を降りて、リビングのドアをノックした。
コンコン。
「はーーい」
息子の笑いを含んだ声が聞こえる。
「メリークリスマス!」
オレは、ドアを大きく開けた。
サンタクロースではなく、トナカイの着ぐるみに、すっぽり全身を包んだ姿である。
トナカイの角のあるフードの下から、顔だけが出ている。
「……?」
妻は笑い出したが、息子は、今までに見せたことの無いような複雑な表情で固まっていた。
何が何だか分からないと言った顔である。
「どうした?」
「……なんで?」
丸くなった目で、トナカイの姿をしたオレを見る息子。
やはり、何が何だか分かっていないようであった。
後で息子に話を聞くと、サンタが現れたら、「お父さんだろ!」と言うつもりだったのに、サンタではなく、トナカイの着ぐるみ姿のお父さんが現れ、意味が分からなくなったらしい。
トナカイ? トナカイが出てきた。
じゃあ、さっき、お父さんの部屋で見たサンタの後ろ姿は誰だったのか?
知らない人が、お父さんの部屋でサンタになっていたの?
そして、なぜ、お父さんはトナカイ?
どこで、どうやって着替えたの?
今までのサンタは一体……。
何か、怖い話が始まっているの?
入ってきた情報量か多すぎて、予想以上の衝撃を受けたらしい。
許せ、息子よ。
こうして、サンタクロースのラストミッションは終了した。
楽しんでいたのは、息子より、むしろ父親のオレだったと言うお話でした。
次の更新予定
サンタクロース・ラスト ミッション 七倉イルカ @nuts05
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