第6話 いってきます

「コウ、バングルはちゃんとつけた? 落とさないようにするのよ」

「分かってる」

「お弁当は持った? 水筒は? ……ああ、食事をするならお手拭きも必要ね。待ってて、持ってくるから……」

「ちゃんと自分で全部持ってるから!! もういい?」

「ああ、待って! いい? 荷物は落とさないようにするのよ。不審な人に話しかけられたら、すぐにバングルの緊急通報ボタンを押すのよ。もしお金が足りなくなったら連絡してね。それから……」

「あー、もう、分かってるって!!」

 母さんの心配性は、相変わらずである。もう何度も言われたことで、いい加減耳にタコだ。

 ……まあ、あの日から初めての遠出だし、心配するのも無理ないか……。

「しばらく帰らないから! ……行ってきます!」

「ああもう、考新!! ……行ってらっしゃい」

 母さんは、それ以上を言うのを諦めたらしい。最終的に、送り出してくれた。

 足早に待ち合わせ場所に向かうと……そこには既に、サラの姿があった。彼女は僕の姿を見るなり、びしっと指を指してくる。

「三分遅刻っ」

「誤差だろ……」

「え~? ……まあまた、お母さんの心配性に付き合わされたクチだ」

「……正解」

 相変わらずだね~、とサラは笑う。その言葉に……僕も笑った。本当、いい加減にしてほしいよ、なんて言葉を返す。

 そして、僕は続けて告げた。

「まあ、そんなことどうでもいいんだよ。……じゃあ、始めようか。家出!!」

 僕の宣言に、サラはニヤリと笑って。

「うん!」

 そう、頷いた。

「今日はどこに行こうか?」

「そうだなぁ~……」

 そうして僕たちは、歩き出す。目的地は、歩きながら決めることにして。

 ……親から離れた、僕たち二人旅だ。


【終】

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エスケープ・ザ・ホーム 秋野凛花 @rin_kariN2

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