この作品には痛みが張り巡らされている

閉じられた世界の中で繰り広げられる日常かと思っていたら、冷たさとは反対にある熱を感じさせる作品だった。
ラストへ向かうにつれて作者の筆圧がどんどん強まっていくのがわかる。
主人公の心情の盛り上がり、自分が何者であるかということに気付いてしまった絶望、最後の文で主人公は森に向かうに留まっているが、読者にはその先が透けて見える。だからこそ「痛い」という読後感を得る。
よく計算されている、というのは違う。ここで描かれている先生もトムもドリーも呼吸をしている。決して人形になっていないところがとても良かった。
個人的にはもっと膨らみを持たせることができそうな設定だと感じ、より字幅を割いたものが読みたかった、と思ってしまったが、これも作者の力量ゆえだろう。