第7話 俺って人間?

 俺は生前、妹が欲しかった。かわいくて優しい妹がいたら……俺のことをゴミを見る目で蔑んでほしかった。ムチで打ち付けてほしかった。


 ゴミを見る目ではないが……とりあえず1つ夢が叶った。妹にムチで打ってもらえた。


 凄まじい衝撃音がして、妹の振るったムチは俺の顔面に直撃した。


「どう?」ムチの扱いが様になってる妹だなぁ……「一応、全力だよ。効いてないみたいだけど」

「なかなかの衝撃だったぞ」ちょっとだけ痺れた。「なるほど……これが9Eの痛みか……」

「……念の為言っておくけれど、たぶん通常の人間なら一撃で気絶だよ。平然としてるお兄ちゃんはおかしいからね? 性癖に関しては受け入れたけど、その頑丈さはまだビビるからね?」


 妹すらもビビっている。そりゃビビる。いや……雷以上の威力を出せる妹にもビビるけど。とんだ怪物兄妹きょうだいなんだな……


「ちなみになんだが……躊躇なく顔を狙ったよな」

「うん。だってお兄ちゃん……目を包丁で刺しても効かないし。包丁のほうが折れたし」

「俺って人間?」

「たぶん違うと思う……」だろうな。「彫刻が石を持って動き始めた生命体じゃないかな……だから痛覚がないんだよ」


 説得力のある学説が出てきた。俺が人間だと仮定するよりはよっぽど信頼できる。


 しかし……


「雷とかでダメとなると……他に何を頼れば……」

「一応、候補は考えてたみたいだよ」雷以上? 「リノ・セロスって人」

「……リノ・セロス?」聞いたことがない名前だ。「誰だ?」

「王宮の……拷問官だよ。まぁ表向きは兵士ってことになってるけど……基本的に罪人やスパイに対する拷問は、リノさんがやってるんだって」

「……そんな情報、どこで調べてくるんだ……?」

「お兄ちゃんが調べてきたんだよ」さすが俺。記憶にないけれど。「とにかく……お兄ちゃんはリノさんに会いに行こうとしてたの。その途中でチンピラたちがケンカ売ってきて、いつものように殴られてた。それで……」

「記憶がなくなったと」


 変なタイミングで転生してきたものだ。


 しかし拷問官か……痛みを与えるプロフェッショナルみたいなものだ。もしかしたら俺の欲望も満たしてくれるかもしれない。


「ともあれ……リノさんね……その人はどこにいるんだ?」

「たぶん王宮じゃないかな。といっても……拷問室はどこにあるかわからないよ。おそらく秘密裏に行われてることだから……探し出すのは、通常の人間なら苦労するだろうね」

「じゃあ俺なら大丈夫だな」

「うん。たぶん大丈夫だね」


 と、いうわけで……俺は王宮に向かった。

 

 目的は……リノ・セロスさんと会うことである。

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