第3話 まぁ強いて言うなら最強なんだけど
「よし妹よ。今後の俺の目標と行動目的について教えておく」
「世界最高の痛みを探しに行くんでしょ?」
「そうだ。もうこの世界では、性癖を隠さない。もちろん、犯罪にならない範囲でな」
「それがわかってるなら、私は止めないよ」
物分りの良い妹だなぁ……生前の俺は一人っ子だったので、妹という存在に憧れていた。
だが……俺の憧れた妹というのはもっと……
「……もっと冷たい目線を向けてもらいたい。親殺しのクズ野郎が命乞いしてきたくらいの目線で」
「相当だよ、それ」
「それでいいんだよ。俺は……俺は……妹に罵倒されることを夢見て生きてきたんだ」
俺のMは肉体的なMだけじゃない。精神的にも発揮される。
ツンデレの妹に罵られたいと、常に思っていた。しかし俺には妹がいなかったのだ。だが……この世界になら妹がいる。
「と、とりあえず家に帰ろうか。ちょっと……道でする話じゃないね」
まったくもってその通りだったので、俺はおとなしく家に帰った。
帰ったというより……妹に連れられて家に到着した。まったく覚えのない家だったが……まぁここが俺の家なのだろう。
木造の……どこにでもありそうな家だった。内装はサッパリしていて、とても過ごしやすそうだった。
さて家で妹と2人になって、
「お兄ちゃん……やっぱり記憶喪失なの? 家の場所も忘れるなんて……」
「……ちょっと記憶が混乱してるみたいだな……」そういうことにしておこう。「キミ……えーっと……ヒコマロのことも、あんまり覚えてないかもしれない」
「……そうなんだ……」
悲しそうな表情をされた。
……申し訳ないな。ヒコマロにとっての兄は、すでにいなくなってしまったのかもしれない。俺がこの世界に転生してきたせいで、1人の人間の精神を消してしまったのかもしれない。
「とりあえず……私のことはマコって呼んで。いつも、そうだったから」マコ、ね……「うーん……じゃあ、とりあえず私のことを軽く説明しようか」
「そうしてくれるとありがたい」
「うん。私はヒコマロ。みんなからはマコって呼ばれてる」ヒコマロでもかわいいけどな。「えーっと……まぁ特に取り柄もない妹である私なんだけど……とりあえず、私にはお兄ちゃんがいます」
「俺のことだな」
「そうそう。それで……お兄ちゃんはドMなの」
「それは知ってる」
「じゃあ大丈夫だよ。お兄ちゃんに関する情報はそれだけだから」
俺の情報ドMだけ? それだけ?
「なんか……他にないのか?」
「うーん……まぁ強いて言うなら最強なんだけど……たぶん、世界中の誰よりも強いんじゃないかな」先にそれを言ってくれよ。「でもなぁ……M要素が強すぎてね。ただのM野郎だと思われてるよ」
……ああ……そうか。なるほど。なんとなくわかった。
「ケンカになったら……一方的に殴られてるってことだな?」
「そういうこと」
「……じゃあ、負けっぱなしってことか……」
「そうでもないよ。お兄ちゃんタフだから……大抵は相手がドン引きして逃げていくよ。毎回ケンカ相手が可哀想だよ」
ごめんケンカ相手。まったく記憶にないけどごめん。
しかし……相手がドン引きするくらいタフなのか……
ちょっと試してみたいな、と思っていると……
「あ……」突然、家のドアがノックされた。「……お客さんみたいだね……」
「そうだな……友達か?」
「友達のノックに聞こえる?」
「ヤクザのノックに聞こえる」
明らかに力が強い。扉を蹴破ってきそうな勢いでのノックだった。怒鳴り声が聞こえてこないだけ優しいほうかもしれない。
このノックをしている人間の正体とは……
「借金取りか?」
「借金はしてないよ。お兄ちゃんが逆恨みされてるんでしょ? いつものことじゃない」
「いつものことなのか……」
俺……結構罪深い人間なんだな……
ともあれ……俺が原因なら俺が出迎えるべきだろう。
そう思って、俺は玄関の扉を開けた。
すると目の前の男が……
「ようやく見つけたぜ……ぶっ殺してやる!」
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