第4話 それはちょうど良かった

 ぶっ殺してやる……そう言われて、俺は興奮するタイプである。


 扉を開けたら、目の前に目を血走らせた男がいた。明らかに怒っていて……俺に憎悪を向けてきている。


 悪くない。その目線は、俺のM心をくすぐってくれる。


 男は家の中に押し入ってきて、


「おい……! お前!」

「俺?」

「そうだ。俺のことを忘れたとは言わせんぞ」

「……悪いが……妹のことも忘れてる始末でな……」


 こんな因縁の薄そうな相手なんて、覚えているわけもない。というか異世界に来たばかりなのだから、俺は知らない。


 ……どうせ異世界に来るのなら、完全に最初からやりたかったな。このドM野郎の人間関係を把握するのが大変だ。


「それで……あんたは俺になんの用なんだ?」

「とぼけるな!」相当ご立腹のようだ……「お前のせいで……お前のせいで……逃げられたじゃないか!」

「……逃げられた……?」

「酒場での話だよ」律儀にも説明してくれるらしい。さっさと殴りに来ればよいのに。「俺はこの間の夜……とある女を口説いてた。あとちょっとでお持ち帰りできそうだったのに……そこにお前が現れた!」


 その言葉を聞いて、妹であるマコが反応した。


「あ……あなた。もしかしてルートルさん……?」

「……ルートル?」当然、俺は聞いたことがない名前だ。「有名人なのか……?」

「まぁ、有名人かな。最近、酒場で女性たちに暴力を振るってる男がいるって話で……その名前がルートルさんだったよ。顔も確か……こんな感じだと思う」

「なるほどねぇ……」話が見えてきた。「つまりお前さんは……女性を暴力的に自分のものにしようとしたが、俺に邪魔されたってわけだ」


 逆恨みな気がする。こっちの世界の俺は……結構かっこいい男のようだ。


「暴力も力の1つだ」ルートルは肩を回して、「俺が俺を鍛えて身に着けた力だ。その力で、欲しいもんを手に入れようとして何が悪い?」


 ふーむ……どうなのだろう。そういう世界観なのだろうか。世紀末な感じなのだろうか。今のところ、そこまで治安の悪い場所には見えないが。

 マコの説明を聞く限りにも……おそらくこの男が暴力的な男、ということなのだと思う。よくよく近づいてみれば酒臭いし顔も赤いし……昼間から酔っ払っているようだ。


 まぁ……ともあれ……


「要するに……お前さんは俺を殴りに来たわけだ」

「それは正確じゃないな。俺は……お前を殺しに来たんだ」

「それはちょうど良かった」マジでナイスタイミング。「ちょっと……この世界の人間の力の強さを知っておきたかったんだ」


 生前……俺はたまに……そういうクラブに行っていた。合法的に俺を叩いて罵ってくれる場所に行っていたのだが、満足したことはない。


 どうやら俺は生まれつきタフなようで、痛みをなかなか感じないのだ。求めているものを感じれないという歯痒い思いをしてきた。


 しかし……ここは異世界なのだ。もしかしたら……俺の希望を超える痛みを提供してくれるのかもしれない。


 もしかしたら魔法が飛んでくるかもしれない。大岩を砕くような威力のパンチかもしれない。想像するだけでヨダレが出そうだ。


「来いよ」俺は相手を挑発する。「俺はしばらく反撃しないからさ。思う存分、その力を振るってくれ」

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