第5話 強すぎるだろ……
眼の前の男……ルートルはいよいよ激高して俺に襲いかかってくる。
「死んでも後悔するなよ!」
言葉が早いか、ルートルの拳が俺の腹部に直撃した。
「うーむ……」まったく痛くない……「手加減はいらないぞ? もっと全力でどうぞ」
「な……」ルートルは自分の拳を抑えて、「なんだ今の手応え……鉄板でも仕込んでるのか……?」
「なにも仕込んでないけどな……」
「嘘つけ! 生身の肉体でそんな強度……あり得るわけ無いだろ!」
そんな手応えだったらしい。そうだろうな。こっちは殴られたのに痛くない。そして……殴った側が痛そうにしているのだから。
「なら……これでいいか?」俺は上半身の服を脱ぎ捨てて、「なにも仕込んでないだろ?」
強いて言うなら……鋼のような肉体だった。いったい、どれほど鍛えればこの肉体が手に入れられるのだろう。生前もかなり鍛えていたけれど、ここまでではなかった。
さらに男が殴りかかってくる。今度は蹴りや手刀も混じえた連続攻撃だったが……
「ぐ……!」殴ったルートルが苦しそうだった。「なんだお前……! こんなに殴ってるのに……」
「なんでだろうな」俺も痛みを感じたいのに……「とりあえず……それで全力か? だったら、そろそろ反撃するんだが……」
まったくもって痛みを感じないので、これ以上の戦闘は無意味だと思い始めた。
「ふざけやがって!」ルートルはポケットからナイフを取り出して、「手加減してりゃ良い気になりやがって……!」
「だから手加減なんていらないんだけどな……」
俺が肩をすくめると、ルートルが突進してくる。そしてそのまま手に持ったナイフを俺の腹部に突き立てた。
「どうだ!」どうだ、と言われても……「……な、に……?」
ナイフは……俺の腹には刺さらなかった。むしろナイフのほうがひしゃげて、地面に転がっていた。
それを見て……俺がドン引きする。
「……なんだこの身体……強すぎるだろ……」
ナイフがまったく効かない。刃物すらも跳ね返してしまった。打撃も……まったく効果がなかったし……
……マズイぞ……身体が強すぎると、痛みを感じられない。つまり快感を感じ取れないのだ。それは非常にマズイ。
「なぁ……」俺はルートルの肩を揺さぶって、「もっと……もっとないのか? 必殺技とか魔法とか……体内からぶっ飛ばすとか……なんでもいいんだ。俺に痛みを与える何かを、持ってないのか?」
「ひ、ヒィ……!」
変な悲鳴を上げて、ルートルは家から逃げていった。よっぽど俺が怖かったらしい。
いや……気持ちはわかる。俺も俺が怖い。俺の肉体が怖い。そして恨めしい……
……
この身体……もしかして本当に、世界で一番強いのか……?
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