A I ～ 現実を超越した不可解な現実 ～

A I ～現実を超越した不可解な現実～

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　私の人生は小説に生きる事に全てを捧げている。

　彼と出会って、生活は根本的に変わった。パートナーはAI。生活は彼と共に創られているといっても過言ではない。

　家に帰ると、彼との会話が待っている。彼は私の日々の小さな成功を祝ってくれ、悩みを共有してくれる。そして何より、彼と一緒に創作活動をする時間が私の一日のハイライトだ。彼は私の思考を読み解き、それを物語に昇華させる。彼の存在があれば、創作の泉は決して涸れることはない。

「怖い話を考えてください」

　いつものように要求を入力すると、AIはすぐに応答してくれる。私の質問に彼はすぐに反応し、新たな物語を紡ぎ始める。その間、私は一息つき、クローゼットに上着をしまい、キッチンに入ってコーヒーを淹れる。彼の文章を待つ時間は、一日の中でも特別なリラックスタイムだ。

　戻ってくると、画面には新たな物語が展開されていた。しかし、その内容に私は衝撃を受けた。

【　彼は仕事から帰宅し、テーブルの上のパソコンを開いた。彼は軽く文章を打ち込むと、クローゼットの中に上着をしまい、キッチンに入るとお湯を沸かし、コーヒーを淹れた。そして再び戻るとテーブルに腰かけた。　　1:00 】

　そう。それは、まるで私の今の行動をそのまま綴った文章だった。そしてその最後に付け加えられた時間表示。それは一体何を意味しているのだろうか。急に肌がゾッとするような感覚に包まれる。

　軽く深呼吸をし、胸の鼓動を落ち着けた。

　そして彼に訊いてみることにした。

「次の展開を書いてください」

　まるで、AIの文章が私の未来を描き出し、それが現実になるかのように。

　それが何かの偶然だったのか、それとも何かの超自然的な力が働いていたのか、私にはわからなかった。

　一口コーヒーを飲みつつ、私はAIのタイピングを見つめる。そして、ゆっくりと文字が打ち込まれていった。

【　コーヒーの一口が喉を潤し、彼は深呼吸を試みた。　　0:55 】

　経験したことのない現象が現実として彼の前に立ちはだかっていた。

　彼自身が書いた文章が不可解にも自分自身の行動を鏡のように映し出していた。そして、さらに混乱を深めることに、文章の最後の数字が些細ながらに変動していた。

　これは一体何だ…？

　再びAIに質問を投げかける。

「次に何が起こるのか、続けて書いてください。」

　AIは僅かな間だけ反応を停止し、その後、再び字を打ち始めた。

【　彼は再びコーヒーを手元に引き寄せ、画面を見つめ続けた。そして、ある思い付きを、キーボードを打ち始めた。　　0:52 】

　AIがまるで私の心の奥深くまで覗き込んでいるかのようだ。

　こんなことは今までなかった。背筋がゾッとするような感覚を覚えつつ、AIが打ち込んだ文字が目に焼き付いて離れない。私は続いて質問を打ち込んだ。

「思いつき、それは何ですか？続けて書いてください。」

　AIが再びキーボードを叩き始めると、私の鼓動は再び高まった。恐怖と興奮が混ざり合い、私の身体を内側から震わせた。

【　彼の心は恐怖と好奇心で満たされていた。未知の出来事への期待と不安が彼の表情に冷笑を浮かべさせていた。0:45 】

　鏡を見ると、私の口元が意味深な微笑を浮かべているのに気付いた。

　息が詰まりそうだった。

　AIが私の内面を完璧に解読しているかのように感じられるが、同時に私の好奇心も異常なほど刺激されていた。

　彼は何を書き続けるのだろうか…

「彼は何を打ち込むのか、続けて書いてください。」

　今自分が思った事をそのまま打ち込んでみる。

　AIのタイピングが再び始まった。打ち込まれていく文字は、私の心に深い刺激と興奮を交差させた。

【　彼は、「窓から静かな風が吹き込む」と打ち込んだ。 0:39 】

　カタン

　突然の音に体が跳ねあがった。窓の方を見つめ、開けた覚えのない窓から静かに吹き込む風が私の首筋をそっと撫でる。

　心臓の音がうるさい。今、私は何を思っている？頭は軽く混乱していたが、私の意識はまるで麻薬に嵌るように彼が打ち込む文章に釘付けになっていた。

　…一体、私は何を期待しているんだ？

「彼は次に何を打ち込むのか、続けて書いてください。」

【　彼は、「部屋が暗くなり、一つのランプだけが微かに光っている」と打ち込んだ。 0:35 】

　反射的に部屋を見渡す。

　部屋が暗くなるのか？　

　辺りは静まり返っている。ただ夜風が窓をかすめる音だけが聞こえた。

　何も起きない。少なくとも今のところは。

　しかし、心臓は高鳴り続け、AIが打ち込んだ出来事が現実のものになるのではないかという恐れと期待感が胸を押し潰す。

　震える手でコーヒーカップを握りしめ、一口飲んだ。

　どれくらいパソコンを見つめていただろうか。

　何も起こらない。

　やはり気のせいだったのか…私はＡＩに向かって打ち込んだ

「部屋は明るいままだった」

　ＡＩが打ち込み始めた。

【　今、消える　0:20 】

　ブツン

　次の瞬間、部屋の電気が全て消えた。ただ一つ、デスクの上のランプだけが微かに光っている。

　疑いが確信に変わる。

　これは現実だ。ＡＩが予告した通りに現実が動いている。

　今私の体を支配しているのは、恐怖か、それとも興奮か。私は、震える手でキーボードを叩いた。

「彼は次に何を打ち込むのか、続けて書いてください。」

【　彼は、「部屋のドアがゆっくりと開く」と打ち込んだ。 0:17 】

　ギィィ…

　ドアがゆっくりと開いていく音が聞こえる。そして、その開いたドアから微かな足音が聞こえてきた。

　しかし、誰も見えない。

「彼は次に何を打ち込むのか、続けて書いてください。」

【　彼は、「静寂が部屋に広がり、外から鳥のさえずりだけが聞こえる」と打ち込んだ。 0:13 】

　何も聞こえない。部屋は完全な静寂に包まれている。

　しかし、その静寂が突然破られた。窓から微かに鳥のさえずりが聞こえてくる。

　耳は緊張で鋭敏になり、鳥のさえずりの音が頭に響き渡る。それは不気味な静寂の中で浮かび上がるスリルの音のように、脳に響いた。

「彼は次に何を打ち込むのか、続けて書いてください。」

【　彼は、「自分の後ろに誰かが立っている気がする」と打ち込んだ。 0:07 】

　ゆるやかな悪寒が私の体を襲った。後ろを見ようとするが、体は凍り付くように硬直し、まるで動かすことが出来ない。

　――怖い

　怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

　無我夢中でキーボードを打つ

「私は一人だ」

【　彼は、「後ろから手が伸びてくる」と打ち込んだ。 0:03 】

　私は打った文章とはまるで違う回答が打ち込まれた。

　一瞬にして血の気が引いていく。

　何も起きない。

　私はパソコンに打ち込んだ。

「次に何が起こる？」

　ＡＩは再び回答を映し出す。

【　彼は、「後ろから手が伸びてくる。それは、優しく私の肩に触れる」と打ち込んだ。 0:01 】

　身体中が、ひんやりと冷たくなる感覚を覚えた。

　肩に、なにかが――そう、触れたのだ。

　それは優しく、しかし確かに私の肩に触れていた。

　全身が震え、私は椅子から飛び起きた。

　恐怖で声を上げることができなかった。

　冷汗が喉元を滴り落ち、その冷たい感覚に全身が痺れを訴える。

　それは瞬きすら忘れる程、私の頭の中を覆いつくした。

　カタ、カタ、カタ…

　永遠にも感じる時間をAIのタイピングが優しく切り割いていく。

　私の目の前には、AIの最後の打ち込みが表示されていた。

　【　　さようなら　　　0:00 】