弟子入り前のことは覚えていない、魔女に引き取られた赤毛の娘。
師の跡を継いだ今も忘れないのは、年に一度の十二月、《クランプスナハト》の夜の思い出。
歳幼い魔女を訪ねて周り、お守りを授けてくれる冬の神、クランプス。
娘のところに来る《彼》は、凍死しかけていた自分の救い主でもあったという。
そんな《彼》に娘は恋をした。
「どうしたらまた会えますか?」
「君が僕を見つけたら」
最後にそれだけ聞いた娘は、秋めくフランクフルトの大学で掴んだ手がかり、くしゃくしゃの質問用紙にこう書いた。
‶本物のクランプスに会う方法はありますか?〟
風が冷たくなり始めた十月に始まり、回想を挟んで十二月五日、その年の《クランプスナハト》へと向かう恋のお話。
ブランデーを少し入れたいような冬の日、心が冷え切ってしまう前におすすめしたいです。
もろもろ片付けてしまうか別日に投げた後で、リラックスできる暖房の効いた部屋でどうぞ。
おそらくは細かいトコロまでしっかり練られた設定があって、でも、設定を説明するに終始してしまったならば、この作品は小説ではなくて設定資料になってしまったかもしれません。
そう。設定は作品に厚みと説得力を持たせる為に必要だけど、その全てを説明する必要なんてないんですね。そのさじ加減がとても美しい作品でした。
世界観の全てを説明しきることに注力するのでなく、飽くまで主人公の心の機微と生き抜く強さを書くことに焦点を当てて書ききっておられます。
また、敢えて説明しきらない事で生まれている余白が、読者の想像力を掻き立てて、それが読者の頭の中のキャンバスを鮮やかに彩ります。
いじらしくも逞しい主人公の生き方に寄り添うようにこの作品を読んだなら、キュンキュンしながら一気に読み終えてしまうでしょう。
さあ、そんな体験を、是非、あなたも。