第43話 ジェットコースターと夢の始まり

 それから数日後。


 僕は十数名の森霊族を連れて、ジェットパークにやって来ていた。


 目的は、“森のジェットコースター”のお披露目。


 明日は王都での大きな用事に向けて街を発たなきゃなんだけど、その前になんとか完成に漕ぎつけた。


「目玉の魔遊具なんだって? 楽しみだね!」


 嬉しそうに言うのはヌヌンギさん。


 今日のメンバーは彼とその家族の他、ロロネア、レレノンさん、ミルミーさん、ガガイアさん、さらにはロロネア達の部下がいる。


 人間サイドとして父さん達を呼ぶ案も考えたけど、ひとまずは森霊族達へのお披露目とした。


 ただ、精霊の里としても人間達との交流を増やすことは視野に入れているようで、近々父さん達との面会を行う計画を立てている。


 交流といってもお試しレベルの小規模なものとのことだけど、森霊族と人間の関係においては大きな一歩と言っていい。


 意図してのことではないとはいえ、その架け橋になれたのは僥倖だった。


「では、お披露目といきましょうか」


 コースターの乗り場を作りはじめた辺りから、該当エリアの様子は大きなカバーで隠してある。


 僕がカバーを取り払うと、皆からわっと声が上がった。


「さあさあ、こちらへ」


 階段を上って乗り場に着くと、皆が不思議そうに車体を見る。


「なんだ? この不思議な構造は……」

「また面白いものを作ったわね」

「トロッコとは全然違いますね……」


 車体を見ながら首を傾げるロロネア達三人衆。


 たしかに以前、トロッコに似ているかもという話が出たけれど、トロッコに比べてこちらの車体はずいぶんゴツい。


 激し目のコースターなので安全バーが付いているし、そもそも車体の長さが違うからね。


 何人乗りにするかは少し迷ったけど、とりあえず2席×10列の20人乗りで作っている。


「リベル君、これが動くのかい?」

「むう、面妖な……」


 前情報が全くないヌヌンギさんやガガイアさんも、初めて見るジェットコースターに興味津々の様子。


 ロロネア達も早く乗りたそうにそわそわしているので、さっそく皆を席に案内する。


「これに座ればいいのか?」

「うん。こっち向きに進むから、席順はそっちで決めていいよ。僕は後ろのほうに座るから」

「了解した」


 ロロネアはそう言うと、皆で話し合って席順を決める。


 結果、ロロネアとレレノンさんが先頭、その後ろにヌヌンギさん一家、ガガイアさん、ロロネア達の部下と続き、最後に僕とミルミーさんが座ることに。


 シートベルトと安全バーの説明をして、皆がバーを下ろしたのをチェックした後、ミルミーさんの横に座る。


 ちなみに安全バーは文字通り安全のためでもあるんだけど、実はシンプルに揺れを減らす目的のほうが大きい。


 こちらの世界では魔法が使えるので、安全面は魔法で対策しているのだ。


 万が一レールや車体が壊れたり、車外に放り出されたりしても、瞬時に安全魔法が作用して別場所にある臨時スペースに転移させられる。


 魔スレチックの転送機能に着想を得たわけだけど、事故を防ぐにはうってつけのシステムだ。


「それじゃ、出発しますねー」


 後ろから皆に声をかけ、発車用のトリガー魔法を起動。


 本来は係員役を用意してスイッチで管理してもらう予定だけど、今日は特別なので僕が直々に発車させる。


 ガタン、と軽く車体が揺れた後、ガタゴトとレールの上を進みはじめた。



 ◆ ◆ ◆



「――ご乗車ありがとうございましたー」


 出発から数分が経ち、車体が乗り場に戻ってくる。


 アナウンス等の用意はないので、僕が後ろから皆に声を掛けた。


「いやあ、素晴らしかったぞ!」


 車体を降りると、興奮気味のロロネアが僕のところにやってくる。


 好きそうだなとは思ってたけど、しっかりハマってくれたっぽい。


「ぐねぐね進んですごかったですね」

「なんか新感覚って感じ!」

「スピードがあって風が気持ちよかったわ」


 他の皆も頬を上気させながら感想を語り合っていて、概ね好評に見える。


 前世では絶叫系が苦手な人も多かったけど、そういう人はいないみたいだ。


 森霊族は身体能力が高いので、単なる種族特性かもだけど。


 その後、希望者(ほぼ全員)を乗せて二周目のライドを楽しみ、三周目、四周目とリクエストに応えて発車させる。


 僕は十分満足したので乗り場に残り、同じく残った森霊族の感想を聞いたりした。


 特に皆から好評だったのが、“木々のトンネルエリア”と“泉のエリア”、“空からの下降エリア”の3つ。


 “木のトンネルエリア”は木々の間を猛スピードで疾走するスリル感、“泉のエリア”は目でも楽しめる景色の良さが好評だった。


 “空からの下降エリア”は落下時の高低差が最大となっているエリアで、前世の絶叫系コースターでも根強い人気があったものだ。


 森を突き抜けるように空へと伸び、そこから一気に落ちるため、絶叫的な観点で言えば本コースター最大の山場となる。


 3つとも力を入れたエリアなので、狙い通りにウケて嬉しい。


「もう1回!」とはしゃいですぐに出発する皆を見送りながら、遊園地作りへのたしかな手応えを感じた。



 ◆ ◆ ◆



「――リベル、くれぐれも失礼のないようにな」

「はい、父さん」


 ジェットコースターのお披露目から十日余り。


 僕は長い馬車の旅を終え、父さんと共に王都の城へ来ていた。


『もう1つ重要な話があってな。実は――――』


 父さんの書斎で伝えられた、もう1つの重要な話。


 それは、僕の活躍に対する国からの褒美の話だった。


 広くは正体が知られていないとはいえ、禁域のモンスターを少年が倒したのは周知の事実。


 いずれは正体も知られるので、父さんはありのままを国王陛下に報告した。


 僕の活躍を知った陛下は、父さんだけではなく僕も一緒に王城へ呼び出すことに。


 僕達は現在謁見の間の目の前に立っていて、重い扉が開くところだ。


 まさか、あれから数日で陛下に会うことになるとは……


 上質な絨毯の道を進んだ僕と父さんは、陛下の御前で跪く。


 礼儀作法は急ごしらえのものなので、基本的には父さんの見様見真似だ。


「面を上げよ…………よい、面を上げよ」


 二度目の言葉で顔を上げて、陛下の顔が目に入った。


 見るからに国王という風格のある、40代ほどの人物だ。


「久しいな、ライアン」

「はっ。陛下におかれましては――」


 父さんはしばらく陛下と言葉を交わし、先日のスタンピードの概要について説明する。


 謁見の間には詳しい話を知らない貴族も多数いたようで、10歳かそこらの少年がボスを仕留めたと聞いてざわついていた。


 陛下は領主としての責務を果たした父さんを褒めて褒賞の話を終えた後、僕のほうへと視線を向ける。


「して、其方が……」

「はっ。リベル・エル・レクシオンでございます」

「ふむ……その年にして英雄級の活躍、実に素晴らしいことだ。リベル・エル・レクシオン、其方に男爵位を授けよう」


 ん? 男爵位?


 予想外の言葉に一瞬フリーズするも、我に返って頭を振る。


「……はっ、謹んでお受けいたします」

「うむ」


 再びざわめく空気の中で陛下は頷く。


 いきなり爵位をもらうとは考えてなかったけど、功績を考えたら妥当か。


 禁域奥地のモンスターが国内に侵入していた場合、国が半壊していた恐れもあったのだ。


 隣で嬉しそうに笑う父を見ながらそんなことを考えていると、「しかし……」と陛下が口を開く。


「男爵位だけでは正直不足だな。リベルは救国の英雄なのだ。そうだな……リベル、他に望む褒美はないか?」

「えっ……私が希望する褒美ですか?」

「うむ。なんでもよいぞ」


 なんでもよい、か……困ったぞ。


 ちらりと父さんのほうを見ると、困ったような笑みを浮かべている。


 正直、遊者の力があれば大体のものは作れるし、急ぎで欲しい物とかも特にないんだけど……


 うーん、無難にお金とか? ただ、お金は既に父さんが褒美でもらっているし、個人的に大金が必要かと言われると……遊園地の経営資金くらい? いや、待てよ?


 脳内に遊園地という言葉を浮かべた時、ある閃きがついでに浮かぶ。


「……では、1つ希望したいことが。物ではないのですが、構わないでしょうか?」

「うむ、内容次第ではあるがな。申してみよ」

「はっ」


 僕は丁寧に頭を下げ、今しがた思いついた内容を述べる。


「私が希望したいのは、禁域内での正式な営業許可でございます」

「ん? 禁域での営業許可? あの土地はどこの国にも属しておらんから、許可も何もないと思うが……」

「すみません、説明不足でした。私は近い将来、禁域にとある娯楽施設を作る予定でございます」

「何? 娯楽施設だと?」


 陛下が首を傾げて言い、ざわめきが再び大きくなる。


「はい。詳細は決まっておりませんが、非常に大規模な施設です」

「ほう……」

「もちろん場所が禁域なので、勝手に作っても構わないかとは存じますが……私はさきほど爵位も賜り、立場ある王国の人間ですので」

「ふむ、……無断で作るのは体裁が良くない、か」

「はい、その通りでございます」


 おお、陛下は察しがいいぞ。


 僕はこれでも王国内の貴族という、それなりに立場のある人間だ。


 ルール上は特に問題とはいえ、王国の許可があるのとないのではだいぶ心持ちが違う。


「リベルよ。確認だが、その施設とやらは娯楽用のものなのだな?」

「はっ。特に他意はなく、純粋に楽しむための施設です。既に森霊族達の協力を得てテストも行っておりますし、完成の暁にはができるかと」

「はっはっはっ! 面白い! いいだろう!! リベルよ、其方が禁域内で施設を作ることを認めよう」

「はっ。ありがたく存じます」


 僕はにやりと笑って言う。


 これで心置きなく禁域に遊園地が作れるぞ。


 周囲のざわめきは最高潮に達し、父さんの視線が少し痛いけど、僕としては満足のいく褒賞だ。


 図らずも将来の遊園地の宣伝にもなったことだし、近いうちにさっそく土地開発を始めようか。


「救国の英雄が作る娯楽施設だ。面白い報告が聞けることを期待しているぞ?」


 退室の間際、陛下は口角を上げて言った。


 僕は「ご期待ください」と頷いて、出口のほうへと体を向ける。


 そう、これから始まるのだ。


 森の公園というテスト段階から、本格的な禁域での開発へ。


 異世界に遊園地を作る――そんな夢の目標が、一気に加速するのだった。




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ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございます。

ひとまずこれにて区切りといったところでしょうか。

続きにつきましては未定ですが、評価がよければ書くかもしれません。

面白いと感じてくださった方は、ぜひ星で評価をいただけると嬉しいです。

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転生遊者の土地開発計画 ~貴族の四男に生まれたので、自由気ままに遊園地づくりを目指します~ 秋ぶどう @autumn_grape

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