第42話 告白

 レクシオンを襲った未曾有の危機とその殲滅劇。


 様々な衝撃をもたらした一件は、瞬く間に各所に広がった。


 禁域奥地のモンスター出現。なぜか現れた森霊族。殲滅劇の中心を担った少年。


 少年というのは僕のことなんだけど、意外と正体は知られていない。


 一般の住民に顔見せする機会もなかったし、戦場ではっきりと姿を見たのは前線に立つ一部の者だけだ。


 モンスターの殲滅後は森霊族の皆を帰すため早々に逃げ……立ち去ったので、しばらくは謎の少年という扱いになるだろう。


 ただ、父さんを筆頭に、僕の正体をがっつり知った人達もいるわけで……


「さて――――話を聞かせてもらおうか?」


 書斎のテーブルにて、両肘をついた父さんが言う。


 この2日間、避難していた住民達の件や冒険者ギルドとのやり取り等で忙しそうにしてたから、僕はひっそりと外出したりしてたんだけど、ついに父さんの呼び出しがかかった。


 部屋には僕達2人の他、騎士団の団長のローゼンさん、副団長であり稽古でお馴染みのディナード、レクシオン家筆頭執事のエイブリーさん、僕のメイドであるルティアがいる。


 騎士団の2人は戦場で僕を見ているし、エイブリーさんとルティアも既に話を聞いているのだろう。


 父さんの一声により、4人の視線がこちらへ向く。


 うーん、どこから話したものか……


 僕自身が戦える理由はもちろん、森霊族達が来たことについても説明しなきゃだからね。


 森霊族は戦いの後そそくさと帰った(帰した)ので、説明できる窓口役は僕しかいない。


 しばらく頭を捻った後、とりあえず【遊者】のことから話すことに。


「えーと、実はかくかくしかじかで――」


 今から2年ほど前、病状が回復したと同時に女神の祝福を授かったことを伝える。


 祝福を受けたこと自体は父さん達も予想していたようで、皆が納得するように頷いた。


「ふむ、やはりそうだったか。それで、その祝福というのは?」

「【遊者】です」

「ふむ、【勇者】……【勇者】!?」


 うん、そりゃそうなるよね。


 目を丸くした父さんと4人を見て、首を横に振る。


「たぶん勘違いです。“ゆうしゃ”と言っても、遊ぶ者と書いて“遊者”なので」

「遊ぶ者……遊者……? そんな祝福があるのか?」


 父さんが視線で問いかけると、僕以外の4人は顔を見合わせて首を傾げる。


 だろうなとは思ってたけど、やはり【遊者】は前例のない祝福らしい。


「しかし“遊ぶ者”ですか。能力の想像がつきませんな」

「普段の剣の稽古、スタンピードでの戦いぶりからして、強力な能力なのはたしかですが……」

「そうだな。リベル、【遊者】はどんな能力なんだ?」


 ローゼンさんとディナードが言い、父さんが尋ねてくる。


 どんな能力、ねえ……。正直に言えば“何でもあり”だけど、強いて言うならクラフト系の適性が高い。


 父さんと4人には隠すつもりもないので、クラフトを実演してみせることにした。


 能力の一端を披露する旨を伝え、部屋の中央にクラフト台を生成する。


「なんだ!? いきなり台が現れたぞ!!?」

「物作り用の作業台です。【遊者】の能力は物を作り出すのに便利なので。こんな感じでホログラム――設計図を変形させて、自由に物を作れます」


 ホログラムを適当に弄って、椅子の形を作り上げる。


「こんなもんかな……これを実際に生成すると――」

「おおっ!! 一瞬で椅子が!」


 父さんが興奮気味に言う。


「これはただの椅子ですけど、特殊な性能等を付与することも可能です。先日の戦いで使った武器も、この能力で作り出しました」

「なるほど、そういうことだったか」

「はい。身体強化の魔法なんかも使えますが、基本的には物作りの能力がメインと言っていいと思います」


 皆が一通り椅子を触った後、用済みのそれを腰のアイテム袋に収納する。


「椅子が消えた!? その袋は……!?」

「ああ、これも僕が作ったんです。袋の中が拡張されていて、たくさんの物が入ります」


 僕はいくつかの魔遊具を出し入れしながら、アイテム袋の説明をする。


 この世界ではかなり貴重な部類なようで、父さん達はかなり驚いていた。


「……ところで、さっき見せてくれた魔道具も全てリベルが作ったのか?」

「はい。自作の魔道具……遊者にちなんで魔遊具と呼んでいるのですが――」


 アイテム袋から魔遊具を取り出して、それぞれ簡単に紹介する。


 全ては紹介しきれないから、レーザーガンやスピードシューズ等の主要な魔遊具に絞った。


 父さん達は紹介の度に驚いたけど、同時に好奇心も抱いたようだ。


 それぞれの魔遊具を手に取っては交換し、興味深そうに観察している。


 しばらくして観察の時間が終わると、森霊族と交流を持った流れも説明した。


 流れと言っても全て話すと長いので、要点を搔い摘んだものだ。


 森の中で魔遊具を作っていた時、ロロネアと知り合ったこと。


 彼女繋がりで里に入る流れになり、里長等とも繋がりが出来たこと。


 里内でを行って、皆からの信用を得られたこと。


 そんな中、レクシオンに迫るスタンピードの情報が入り、里の皆が救援を申し出てくれたこと。


「――という感じなのですが」

「…………どこから突っ込めばいいか分からん」


 父さんは話を黙って聞いた後、困惑の表情で口を開く。


 まあ話してる僕自身、突っ込みどころ満載だよねと思う。


 いつの間に結界の外の森に抜け出した息子が、いつの間に幻の国に招待されていて、あまつさえ里の信頼まで得ていたのだ。


「そもそも、森の入口には結界があったはずだが……」

「あ、それなら転移魔法でこっそり抜けました」

「転移魔法!? そんな大魔法まで使えたのか!!?」

「遊者の力は独自の魔法の作成にも応用できるので」

「とんでもない壊れ性能だな……」

 

 父の言葉に全員が頷く。


 そんな一幕を挟みつつも、森霊族関連の話も一段落。


「それでは、今日のところはこの辺で。気になる点があれば、また後ほど話しますので……」

「ああ、少し待ってくれ」


 ルティアのジト目も怖いことだし、今日のところは退散しよう……そう思った僕を父さんが引き止める。


「スタンピードの件について、もう1つ重要な話があってな。実は――――」

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