第41話 はぐれと遊者

「リベル……!? なぜお前が……それにさっきの魔法は……? そもそもなぜ森霊族が……?」


 あー、そりゃ混乱するよね。


 いきなり飛んできたレーザー(未知)でSランクモンスターを瞬殺。


 振り向いた先にいたのは、10歳かそこらの幼い息子。


 さらにはなぜだが現れた、レア種族の森霊族。


 困惑するのも当然だけど、ゆっくり説明している暇はない。


「全て終わったら説明します。森霊族達のことも」


 僕はそう言いながら、襲い掛かってきたモンスターを殴り飛ばす。


「あ、ああ……後で聞かせてもらおう」


 首が折れ曲がったモンスターの亡骸を見て父さんが言う。


 まあレーザーガンは見せちゃったし、今更自重するのもね。


 父さんのもとを離れた僕は、レーザーガンをぶっ放して戦線を押し上げる。


 森霊族の皆も前線に加わり、強力な攻撃でモンスターの数を削っていく。


 ロロネアの矢やレレノンさんの体術も強力だけど、特にミルミーさんの魔法がすごかった。


 長い詠唱と共に放たれる広範囲殲滅魔法。


 こういう大規模な集団戦で最大限の効果を発揮する。


 遠くのモンスター達に魔法を浴びせ、あらかじめ抹殺or弱体化させてくれるので、前線の戦いが楽になった。


「このまま順調に倒し切れないかな……」


 大規模なスタンピードらしく強力なモンスターも多いけど、こちらの戦力はそれ以上。


 もしかしてあっさり終ちゃったりして……なんて思ってた時期もありました。


「Gyrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!」


 やっぱり出るよねぇ、“はぐれ”。


 実際には見てなかったから薄っすらと懐疑的な気持ちもあったんだけど、戦闘を続けること数十分、ついに奴が姿を現した。


「なんと悍ましい……」

「アレはさすがにヤバいわね……」


 近くで戦っていたロロネアとレレノンさんが言う。


 2人が頬に汗を流すのも納得だ。


 遠くに見えたはぐれの姿は、あまりにもだった。


「50……いや100メイルは軽く超えてるね」


 見た目はやけに全身が棘々しい3つ首のトカゲ。


 十分に禍々しいものの、モンスターとしては珍しくない。


 問題はそのサイズだ。


 蠢くモンスター達が小粒の豆に見えるほど、そいつの体は巨大だった。


 形状的に体高はそれほどないため、ある程度の距離まで目視できなかったけど、仮に人型であれば天を突く巨塔のように見えただろう。


 僕達の存在を認知したのか奇声を上げただけで、ビリビリと空気が振動する。


 さすがは禁域から来たりし化け物だ。


 遠目にも分かるその迫力と凶悪性を前にすれば、Sランクモンスターでさえも幼子のように見えてしまう。


「ロロネア、レレノンさん。この辺りのモンスターは任せていい?」

「リベル、行くつもりか?」


 ロロネアの目が少し見開かれる。


 2人の反応からして、森霊族達でもアレに勝つのは難しい。


 少なくとも多大なる犠牲は必須だろう。


 でも、【遊者】の僕であれば、戦えるかもという希望がある。


「とりあえず様子見にね。命を無駄にするつもりはないよ」


 最悪の場合、1度撤退することも考えている。


 2人は真剣な表情で耳を傾けて、無言で頷いてくれた。


「さて……いっちょやりますか」


 アイテム袋からジェットバイクを出す。


 その上に跨った僕は、モンスターを薙ぎ倒しながら離陸した。


「Vrarrrrrrrrrrr!!!!!!」

「上から見ると大きさが際立つね……」


 豆サイズのモンスター達と比較して、明らかに異質な存在。


 3つ首が揺さぶられ、6つの巨大な瞳がこちらを向く。


「気付かれたか……なら先制攻撃だ!」


 ジェットバイクを一気に加速させ、旋回しながらはぐれの横へ。


 レーザーガンを構えて攻撃しようとすると、最もこちら寄りの首がガパリ…と大きな口を開けた。


 ……まずいっ!!


 嫌な予感を察知した僕は、咄嗟に方向を変えて上空へ。


 直後、開かれた口からドス黒いブレスが放出され、僕の真下に悍ましい直線を描く。


「遠距離攻撃持ちか……ほとんど羽のないドラゴンだね」


 流れ出た汗を拭いながら1度距離を取る。


 あの攻撃が飛んで来る以上、下手に地上には降りられない。


 避けた先にいた人達は即死するだろう。


 空中戦を余儀なくされてしばらく周囲を飛び回るが、あのブレスがなかなかに厄介だ。


 奴の首は思った以上に柔軟性があるらしく、後方に回っても首を捻ってブレスを撃ってくる。


 しかも3本の首でそれぞれに撃ってくるものだから、一向に反撃の隙がない。


 ジェットバイクの機動力があれば別に避けられなくはないけど、下手に近付くのもハイリスクだ。


 万が一予想外の攻撃をくらったら、僕でもどうなるか分からない。


「何かいい方法は……」


 飛び回りつつ頭を回転させ、妙案を思い付く。


 ブレスを避けるのが厄介なら、反射しちゃえばいいじゃない。


 もちろんそんな魔法は持っていないので、お得意の即興で魔法を作る。


「反射……イメージは鏡……」


 飛んで来た光線を丁重にお返しする結界。


 いや、どうせなんだから威力を増して倍返しにしてしまおう。


 素早くイメージを固めた僕は、ブレスに合わせて魔法を発動する。


 ヴンと鳴って現れたのは、半透明の巨大な板。


 ちゃんと跳ね返せるかは分からないので、発動しつつ念のため上に退避すると、目論見通りブレスが奴に跳ね返った。


「Grrr……!」

「やった!」


 効いてる効いてる。


 煙を立てる頭を見ながらほくそ笑む。


 奴は学習能力に乏しいようで、何度もブレスを放ってくるが、その度に倍返しで反射する。


 数十発もブレスを反射する頃には3つ首全てがボロボロになっていた。


 ただ、致命傷にはまだまだ遠いらしく、恨めし気な目で上空の僕を睨みつけている。

 

「さあて、こっちのターンかな」


 さすがに懲りたのかブレスを撃つのを止めたので、レーザーガンを3つ首のうちの1つに向ける。


 もちろん出力は最大。


 キィィィィンと甲高い音を鳴らしながら、レーザーガンに魔力が溜まる。


 果たして、最大出力はどんなものだろう?


 危険ゆえにこれまで使わなかった未知数な威力に期待しつつトリガーを引くと、樹齢千年の大木さながらに立派な光線が射出され、狙い通りに顔を捉える。


 盛大な爆発が生じ、苦しそうにはぐれが叫んだ。


「よし、もう1発…………って、えぇ??」


 続けてレーザーガンに魔力をチャージしていた僕は、煙が晴れた後の光景に目を見開く。


 それなりの手応えはあったけど……まさか首ごとなくなってる?


「うん……完全になくなってるね」


 首の1つがまるごと吹き飛び、付け根部分も結構な惨状で抉れていた。


 レーザーガンさん、恐るべし。


 逆の意味で驚きながら、真ん中の首に2発目を放つ。


 再び大爆発が起きた後、やはりこちらの首も綺麗さっぱりなくなっていた。


「Grr……」


 細い声で鳴いたはぐれが、最後の首からブレスを放ってくる。


「はい反射」


 反射魔法でブレスを跳ね返し、後ずさりを始めたはぐれに3発目のレーザーガン最大出力をぶっ放す。


 案の定、爆発と共に最後の首もおさらばし、首なしの巨体が出来上がった。


「おっと……まだ動けるの?」


 やったか……? と思ったけど、まだ絶命してはいないらしい。


 少しだけ後ずさった奴は、体を反転させて走りはじめる。


「ええ!? 逃げるの!?」


 首がないというのにかなりのスピードだ。


「核を破壊しないとダメなのかな?」


 奴の後をジェットバイクで追いながら、モンスター見つける君を装着する。


 すると、巨体の中心あたりに大量の魔力を発する部分があった。


「……っ! あそこか」


 ジェットバイクで巨体の真上に移動する。


 かなりのスピードで逃走中だから、ちょっと照準が合わせにくい。


 最大出力の1歩手間で10発ほど乱射すると、ゴツゴツとした背中が抉れて巨大な魔石が顔を出す。


「たぶんこいつを破壊すれば……ん? 魔石?」


 レーザーガンのトリガーを引きかけた手を止める。


 せっかくの大きな魔石なのだ、どうせなら壊さずに回収したい。


 レーザーガンを1度しまい、取り出したるは魔石回収用のコレクターガン。


 あれだけ露出していれば……いけるはず!!


 トリガーを引き、光線が魔石に達すると、回収されまいと抵抗する力を感じた。


 往生際の悪い奴だ。


 光線で魔石と繋がったまま、コレクターガンに魔力を込める。


「むぅ……くたばれぇぇぇぇぇっ!!!」


 はぐれとの間で始まった魔石の綱引き。


 数十秒にわたって抵抗するはぐれだったが、最後に笑うのは僕だった。


 ふっと抵抗力がなくなると共に、シュン! と巨大な魔石が回収される。


 はぐれ強敵との決着にしては、あまりにもあっけない音。


 エネルギーの供給源を失った巨体は短く痙攣し、ぱったりと動かなくなる。


 それから少し後、時間差ではぐれの討伐が伝わったのか、後方の仲間達から喜びの声が上がるのだった。

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