第40話 そして二人は手をつなぐ

 エルドラーベの城門の前。俺とマリー、そしてクローバーが新たな旅へと出発しようとしていた。


 見送りに来てくれたのはノワとフレアの二人、まあ俺が旅に出ることは彼女たちしか知らないはずだしな。ノワのほうがさっきから辺りをきょろきょろしているのは気になるが。


「ノワ、フレア。店を頼むよ。数日後には一度戻ると思うが」


 俺の言葉にフレアが力強く頷いた。


「任せておいてくれよ。留守の番はしっかり勤めるからさ!」

「ああ、頼もしいな」

「ほら、ノワからも何か言うことが無いのかい?」


 フレアに背中を叩かれたノワは「あの、その」と口をもごもごとさせながら辺りに視線を走らせている。


「どうかしたのか。ノワ?」

「いえ、その」


 いったい何がどうしたというのだろう。不審に思い始めていた時、俺たちの上に影が現れた。見上げると――そこには二頭のグリフォンの姿があった。


 グリフォンが降りて来る。そうして現れたのは。


「みずくさいではないか。ナオト。余に黙って出ていくなどと」

「王様!? どうしてここへ!?」


 やって来たのはアルド王、そしてグリフォン騎兵隊の女隊長さんだった。おお、城門の兵士たちが、ひざまずいている。


「ノワから手紙を受け取ってな。開いて読んでみるとナオトが明日にも街から旅立つと言うではないか。数日で戻って来るとはいえ、またすぐに旅に出るのだろう。なら今日は余にお前を見送らせてくれ」


 俺はノワを見る。彼女が昨日のうちにアルド王へ手紙を届けたのだろう。まったく、嬉しいサプライズをしてくれるな。


「隊長からも一言、二言あるそうだ。聞いてやってくれ」

「はい、王様」


 俺が応えると隊長が一歩前に出た。彼女は俺にぺこりと頭を下げ、マリーにも同じようにした。


「ナオト。あんたたちのおかげで邪竜をどうにかすることができた。それにマリー、あんたの回復魔法のおかげで私やグリフォンの傷も治った。本当に、感謝する」


 それだけ言い終わると隊長は一歩下がった。


 アルド王が立派な髭を撫でながら言う。


「もう少し準備する時間があれば、もっと賑やかにお前たちを見送りたかったのだが……とはいえ、手紙にはお前が静かな旅立ちを望んでいると書いてあったからな。余たちは、こうして少人数でやってきた。良かったかな?」

「ええ、お気遣い。ありがとうございます」


 ノワは俺のことをよく分かっているな。賑やかなのは嫌いではないが、むしろ好きだが、旅立ちの時は静かなのが良い。


「ではな」


 王が手を振り、俺は頷く。ノワやフレア、隊長も同じように手を振っていた。


「では」

「行ってきますわ」

「ウォン!」


 俺はマリーとクローバーを連れてエルドラーベの街から出発した。


 それからしばらく、太陽は中天にあり、エルドラーベが見えないほどの遠くへとやって来た。俺たちは森の中を歩いている。森とは言っても道がちゃんと舗装されているし、日の光もよく当たる。気持ちの良い道だ。


「ナオト、まだまだ歩けますか?」

「ああ、森を抜けるまでは歩き続けよう」

「しばらく旅をしていなかったので心配していましたが、全然大丈夫ですのね」

「これでも最近はちゃんと運動してるからね」

「それは良いことですわ」

「ウォン!」


 俺は森の中を歩きながら考える。そういえば、俺がマリーやクローバーと出会ったのも、森の中でのことだった。あのころに比べると、俺も少しは、たくましくなってるのかな。


「ナオト。新しい町へ着いたら、何をしたいですか?」

「え、俺!?」


 マリーに訊かれて一瞬、答えに迷う。したいことか……そうだな。


「君とデートがしたいかな。もちろん、クローバーもつれて」

「それは良いですわね。クローバー、デートですってよ」

「クゥン?」


 マリーはクローバーに向けて微笑み、彼は不思議そうに首をかしげていた。


 俺はマリーの隣を歩きながら、デートの様子を想像してみる。新しい町で美味しい料理を出すお店を見つけて、俺たちは皆でそれを食べながら、その料理の味はどうだとか、町にある名所はどこだとか、そういう話をするのだ。それはきっと楽しい。


「ねえ、ナオト」


 隣を歩く彼女が俺の名を呼んだ。その視線は俺に向けられていた。


「なんだい?」


 俺はいつものように答える。彼女の様子を見ると、どことなく緊張しているようにも見えた。


「あなたは、わたくしを好きだと言った。その気持ちに今も変化はありませんか?」

「もちろんだよ」


 その返事を聞いた彼女は少し安心したような表情をした。「でしたら」と言って彼女は続ける。


「そろそろ、段階を進めましょうか?」

「段階……親友から恋人になるってこと?」


 期待して聞いてみたのだが、彼女ははにかんで「いいえ」と言った。彼女は下に向けていた視線を俺に戻す。


 彼女の脚が止まった。俺とクローバーも脚を止める。


「まだ恋人には早いですが、手をつなぐくらいはしてもよろしいかと」

「なるほど」


 しばらく一緒に居て分かったが、マリーは色々なものに好奇心旺盛な割に、恋に対してはかなり奥手だ……と思う。


「うん、俺も手をつなぎたい」

「それは良かったですわ」


 俺には俺のペースがあるように、彼女には彼女のペースがある。旅も恋も、それは同じなのだろう。彼女が旅のペースを俺に合わせてくれるように、俺は恋のペースを彼女に合わせたい。そうして付き合っていきたいのだ。


 彼女が手を差し出した。俺は彼女の差し出した手をとる。


 そして俺たちは手をつなぎ、再び歩き始めた。


「ナオト、これからもよろしくお願いしますわ」

「ウォン!」

「ふふっクローバーも同じように言っています」


 マリーは俺に嬉しそうな笑顔を見せてくれた。俺も多分、彼女のような表情をしているだろう。


「俺からも、今後ともよろしく」


 手をつないで歩きながら、俺は彼女との旅を思う。


 きっと来る。明るい未来を想像しながら。


――――


 あとがき


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 今回で一旦完結となります。

 また、気が向けば続きを書くことはあるかもしれません。


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魔法の書を手にした俺は『空間魔法』を集めながら行商の旅を楽しむ あげあげぱん @ageage2023

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