第7話戦い
ついに、酒呑童子達と戦う時がやってきた。
ペット屋には、普段はふつうの動物のふりをしている怪獣や妖怪たちが本当の姿で待っていた。
エキドナ(普段は女性)、だいだらぼっち(普段は男性)、天狐(普段は狐)。
メデューサ(普段は蛇の姿)だけは姿をマントで覆っている。
あとは、ケルベロス、ハルピュイア、管狐、玄武、覚のおばけ、ペット屋のおじいさん(ぬらりひょんの弟)と研磨、北斗、クリス、聡、学で全員集合だ。
「天狐って上品で神々しいね。もちろん、私は可愛いクーが1番好きだけど。」
「だいだらぼっちって本当におおきいんだな。」
「ケルベロスも本当はこんなに大きいんだ。かっこいいな。」
「ハルピュイアも大きくて強そうだな。」
「覚のおばけって、本当はこういう姿なんだ。」
「管狐はそのままなんだね。」
謎クラブのみんなはちょっと興奮している。
最初に、天狐が神隠しの能力を使って、ペット屋のみんなと酒呑童子の一味を別空間に送った。
「凄い。これって瞬間移動?。」
「テレポートじゃないか?。」
「瞬間移動を英語でいうとテレポートって言うんだよ。」
「これって、ワープなんじゃない?。」
「領域展開かもしれないぞ。」
「みんな静かに。敵が来るぞ。」
酒呑童子達があらわれた。
その後ろには、天邪鬼、ぬらりひょん、牛鬼、布団かぶせ、ヤマタノオロチ、玉藻の前、海坊主、オーグ、ゴブリンが勢ぞろい。
「人間達とつるんで情けないぞ。儂らは人間から隠れて、能力を隠して生きていくのはもうやめたのだ。これから儂らは人間を支配して妖怪と怪獣の世界をつくるのだ。仲間にならぬのなら、お前たちは死ぬがいい。」
酒呑童子が大声で宣言した。
「考え直すのじゃ!。ここにいる者たちは人間と共存しておる。人間と妖怪、怪獣が共存できる世の中を目指せんかい?。」
ペット屋のおじいさん(ぬらりひょんの弟)が反論したが、酒吞童子は意に介さず
「かかれ!」
と、命じた。
牛鬼は人間を好物にしているので、口からよだれをたらしながら子供たちに襲い掛かった。
それを、天狐が子供たちの前にバリアを作って防ぐ。
「子供たちを傷つける事など、絶対に許さない。」
天狐が牛鬼に向かって叫んだ。
すかさずメデューサがマントを外し、牛鬼を石にして相手の動きを止めた。
「うわー、助かった。牛鬼ったらヨダレを垂らして襲ってくるんだもん。食べられるかと思った。」
隣では、ぬらりひょんとぬらりひょんの弟が杖をなぎなたの様に使って戦っている。
二人の顔はそっくりだけど、よく見るとぬらりひょんは意地悪そうな顔だし、ぬらりひょんの弟であるペット屋のおじいさんは優しそうな顔をしてるから、誰でも見分ける事が出来た。
「ペット屋のおじいさん、頑張って。」
海坊主とだいだらぼっちはがっちりと手を組みあって力比べをしている。
海坊主が足払いをした、だいだらぼっちはそれを解っていたみたいによけて、凄い速さで一本背負いを決めた。
ドシーン
大きな音がして地面が揺れていた。
「やったぞ、だいだらぼっち。」
刀を構えた酒呑童子にたいして、玄武は空を飛び体当たりしている。
刀が玄武の甲羅にあたるが、傷一つつけられない。
学がドヤ顔をして喜んでいる。
玉藻の前とエキドナは女性同士で髪をつかみあい、もつれ合って戦っている。
「別の意味で、怖いよな。」
北斗が呟いた。
ヤマタノオロチとケルベロスがかみ合いをしている。
「ケル、やっつけろ。」
研磨は応援に忙しい。
オーグの足を咥えてハルピュイアが空高くとび上がり、オーグを地上に叩きつけ、ゴブリン、天邪鬼も次々と同じように地上に叩きつけた。
「ハル、すごいぞ。」
北斗は大喜び。
首の数が多い分ヤマタノオロチが有利かと思われたが、ケルベロスは素早い動きで、ヤマタノオロチを翻弄していた。
しかし、思ったより戦いが長びいて、ケルベロスが疲れを見せてきた。
「ケルが疲れてきた。」
研磨が心配そうに叫んだ。
それを見た北斗はエキドナから渡された瓶をハルピュイアに渡した。
ハルピュイアはヤマタノオロチの口の中に瓶を次々と投げ込んだ。
瓶の中身は酒で、ヤマタノオロチの首は順番に酔っぱらっていき、そこにケルベロスが噛みついて何とかヤマタノオロチを退治した。
「やったぞ、ケル。」
しかし、それを見たぬらりひょんが沢山の甘いお菓子を懐から取り出してケルベロスに向けて投げた。
すると、ケルベロスは甘いお菓子を夢中になって食べ始めて戦うのを忘れてしまった。
「ケル、ダメだよ。お菓子は後であげるよ。」
研磨の声援にケルは正気に戻り、お菓子を食べるのを止めて、また戦い始めた。
布団かぶせは管狐と覚のすばしっこい攻撃に目を回して倒れてしまった。
覚が布団かぶせの心を読んで、管狐に指示していたようだ。
「クーちゃん、カッコいい。」
クリスが黄色い声をあげる。
「覚、もっとやれ。」
聡も興奮している。
戦いはペット屋チームの優勢で、残るは酒呑童子のみとなった。
それなのに、研磨は急に悲しくなった。
ー僕らは人間と妖怪、怪獣が仲良く暮らせる世界をつくりたかったはずなのに。ー
「もう、戦いはやめて!。渡島大島っていう大きな無人島が北海道にある。人間と一緒に住めるようになるまで、あそこを妖怪と怪獣の島にすればいい。僕らは妖怪と怪獣と共存できる国にする為に、頑張るから。だから、もう争いはやめてよ!。」
研磨の声が酒吞童子などの面々に届いた。
ぬらりひょんの弟がぬらりひょんを立たせながら、
「もう一度、子供たちを信じてみんかい?。」
と穏やかに言った。
「解った。もう一度だけ信じてやる。わしらは渡島大島で待っておる。必ず人間と妖怪と怪獣が共に暮らせる世界をつくるのだぞ。」
酒吞童子のその言葉を聞いて、玄武は敵方の妖怪と怪獣たちの傷を治してやった。
その後、天狐が酒吞童子の一味を渡島大島に転送してやった。
遂に、僕らの戦いは終わった。
「でもこれからが大切なんだ。僕らが妖怪や怪獣が安心して人間と共存できる世界を作っていかないといけないんだ。」
学の言葉に、研磨、北斗、聡、クリスは大きく頷いた。
そんな彼らを見てペット屋のおじいさんことぬらりひょんの弟は顔をもっとシワだらけにして微笑んだ。
夏が終わり、寒い地域では紅葉が始まったある日の事だった。
「どうした?。玄武。なぜ僕の携帯をくわえてるの?。」
玄武の様子が変だった。
四方八方を見まわしたり、突然じっと動かなかったり、何かを感じ取っているようだ。
「クー。何を咥えてるの。」
クリスがクーが持ってきたカードを見ると、それは塔のカードだった。
塔のカードは天変地異を意味している。
「どうしたの覚。僕を呼んだ?。」
覚の声が聞こえた気がして、覚の檻に近づくと、覚はちょっと緊張した様子で僕を見た。
ー明日、大きな地震が起こる。被害を最小限に抑えるために、人間と怪獣、妖怪が協力し合うんだ。ー
頭のなかに覚の声が聞こえてきた。
「うん、解った。」
僕はすぐエキドナに電話した。
「あ、エキドナさん?。聡です。明日地震が来るって覚が。そっちでも、準備中?。そうですか。解りました。では、そうします。」
聡は次に父親に電話し、研磨、北斗、クリス、学と次々と電話で計画を話した。
しばらくすると、テレビやスマホや市役所からの放送がはいった。
「緊急地震速報です。明日の午前中に東京、神奈川、静岡を中心に震度8の地震と、津波、富士山の噴火が予想されました。可能な方は、東京、神奈川、静岡から避難するか、海岸線と富士山から離れ、指定の避難場所へ避難を願います。明日、学校は休校とし、交通機関も一時運休する予定です。」
これは聡の父親が政府にかけあった結果、総理大臣が判断をくだした成果だった。
「本当なのか?。明日の地震を予測するなんてできるのか?。失敗したら大恥かくぞ。」
人々は噂しあった。
「おじいちゃん、今から名古屋のおじさんの家に行きましょう。地震が来なくても、久しぶりに会えればいいわ。子供たち、学校は休みだし。本当に地震になったら怖いもの。」
多くの人は地震の予測を信じて行動した。
日本中、いや世界が注目しながら、夜はふけ、次の日の朝を迎えた。
「緊急地震速報です。今日の午前中に東京、神奈川、静岡を中心に震度8の地震と、津波、富士山の噴火が予想されました。可能な方は、東京、神奈川、静岡から避難するか、海岸線と富士山から離れ、指定の避難場所へ避難を願います。いまから交通機関を一時運休する予定です。」
そして、遂に大地震が来た。
「ただ今地震が発生しました。自衛隊、警察に加え、妖怪、怪獣が皆さまの避難に協力いたします。皆さま恐れることはありません。妖怪、怪獣たちは、我々の味方です。」
この総理大臣の演説の背景のスクリーンに、各地で地震の被害を抑える為に行動している妖怪と怪獣たちが写された。
それらは各種メディアで世界中に生中継され、その収益が地震の復興に充てられることも表示された。
震源地では待機していた大鯰とイクチが地震を押さえようとしていた。
海岸線では、海坊主とだいだらぼっちとヤマタノオロチ、みこし入道が津波を防いでいる。
玄武と朱雀は富士山の火口に飛び込み、富士山の噴火を食い止めるために溶岩を押しとどめた。
地震のせいで火災が起こった場所では大天狗と雨降り小僧が消火活動している。
白虎とシチと天狐がけが人や病人を安全な場所に移動させ、ハクタクが病気を治している。
倒れた家屋での救助は、覚が指示を出し、自衛隊、救助犬、ロボット、ケルベロス、エキドナ、ハルピュイア、管狐、酒呑童子、ぬらりひょん、布団かぶせ、玉藻の前、オーグ、ゴブリンがあたった。
覚が「助けて。」という、思念を100メートル向こうから感じ取り皆に救助の指示を出していった。
管狐はピンカメラを咥えて、小さな隙間に入り込み倒壊した内部を映し出し、その映像をもとに被害者救出の計画がねられた。
妖怪と怪獣たちの活躍で、本来なら震度8強だった地震を震度6までに抑え込むことができ、富士山の噴火も何とかギリギリで防いで、6メートル以上の津波をも押し返し、被害は最小限に抑えられた。
メディアは怪獣と妖怪達の活躍を大きく取り上げ、褒め讃えた。
地震の復旧にも妖怪と怪獣たちが協力すると、総理大臣が確約した。
避難民は妖怪や怪獣たちに助けられ、彼らと触れ合い、感謝した。
人間と妖怪と怪獣が協力して共存している国として、日本は大きく取り上げられた。
酒吞童子の一味は渡島大島から、昔からの日本各地の住処に戻ってきた。
地元の人間は心良く彼らを受け入れ、彼らも人間に害をなさないことを誓った。
「これで、人間と妖怪と怪獣が一緒に、仲良く暮らせる国になれるかな?。」
「まだまだ、これからだよ。偏見とか差別をなくすのは難しい。でも、理想をもって、努力をしたらきっと、夢はかなうよ。」
「そうだね、僕らももっと妖怪と怪獣の為に何が出来るか考え続けて行かないと。だって、僕らにはこんなに素敵な妖怪や怪獣の相棒がいるんだから。」
謎クラブのみんなはこれからも、活躍してくれるに違いない。
これからも「困っている子どもにだけ怪獣(ペット)を売ってくれる、妖怪みたいなおじいさんの店」は、日本中どこにだって現れることだろう。
もしかしたら、君の前にも表れるのかもしれない。
もっともその時は君がどうしようもないくらい困っている時だろうけどね。
なんか用かい(妖怪)?、ペット(怪獣)飼うかい?。 高井希 @nozomitakai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます